限られた環境で最善を考える
2017/09/19 00:00:01 |
普段の診療より |
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私はこれまでの医師人生の中で、
救急車を受け入れたり、様々な検査機器が整備されているいわゆる「大きな病院」で働いていたことの方が多かったです。
「大きな病院」にいれば、患者さんの急変があっても、
診察の後、必要な緊急検査を行い、病態に応じた適切な処置が行いやすい状況にあります。
ところが今いる「小さな病院」では、院内で十分な検査ができません。行える処置も限られています。
そうすると限られた検査と限られた処置で対応するためには、問診と診察という身一つで行える技術を磨くことが不可欠です。 ところがそうは言っても問診と診察でわかることには限界があり、
十分な検査ができない場合はこのまま自分の病院で対応するか、大きな病院へ転院搬送するかの選択を迫られることになります。
急に血圧が下がるショック状態になったり、脳卒中で突然半身不随になったりとわかりやすい急変の場合は搬送を迷わないのですが、
多くの場合は当院で対応できないことはない病態なので、直ちに搬送するかどうかを迷うこともしばしばです。
細かいことを言えば、転院に際しては先方の病院に確認を取ったり、家族を臨時で呼び出して病状を説明したり、
診療情報を提供するいわゆる紹介状やサマリーを作成したり、重要な診察所見やすでに行った検査結果などを紙カルテからコピーして添付したりと、
そのまま院内で引き続き診ることと比べたら各所にかかる負担は相当変わってきます。
だから医師心理としてはなるべく院内で病勢をコントロールできるよう最大限の注意を払うものなのです。
なんでもかんでもわからなければすぐ送るというのは見識ある医師ならすべきではないと思っています。
ところが先日、転院搬送するかどうかを非常に悩む状況がありました。
リハビリ目的で来られていたとある特殊な神経難病の高齢患者さんがなんとなくだるいと言い始めたのです。
ミトコンドリア機能が低下するその病気では、スタチンなどのミトコンドリア機能を低下させる薬剤は排除していましたし、
半糖質制限食と薬剤による疑似糖質制限で血糖値も比較的良好にコントロールされていました。
それでしばらく状態は安定していましたが、そのような対応ら数ヶ月後にだるさを強く訴えられ始めたのです。
もともと抑うつ的でリハビリにも他者依存的であまり熱心に取り組まれない様子もありました。
熱もなくバイタルサインも落ち着いていて、血液検査上の炎症反応もCRP1前後とごく軽微。
とりあえず半糖質制限食を解除し、本人の食べやすい食事に切り替え活気を出させようとしました。
それから数日経過を見ましたが、相変わらず倦怠感を訴え続けられ、食事もまともにとれない状態となってしまいました。
とりあえず食事は中止し点滴を開始しましたが、折しもタイミングは連休前の夕方、
このまま診られないことはないけれど、まだ病態を掴みかねている、休みに入れば自分は出張で直接対応することができなくなる、
家族はこの状況を非常に心配している、このまま特殊病態の患者を当院で見続けるのは皆にとってリスクが高いと判断、
遅い時間ではありましたが、私は急遽この患者さんの転院搬送を決断することにしました。
前述の様々な調整を行った後、先方の大きな病院へ感じる申し訳なさから、せめてもの誠意を見せるため私は搬送用の救急車に同乗し、
先方の担当の先生に直接状況を伝えるようにしました。
救急センターに運ばれてしばらくして不機嫌な表情で現れた担当の若手の先生に、
これまでの状況をひとしきり伝えたところ、冷たい口調でチクリと一言、
「数日前から悪かったのならもっと早く運んで下さいね」
こちらの気持ちも知らずに、そんな風に言い放つその先生に不覚にも一瞬イラっときてしまいましたが、
そこは若手医師でこちらの気持ちが分からないのも無理もないだろうと直ちに思い直し、
「搬送に迷って躊躇してしまい、遅い時間となってしまい申し訳ございません。」と素直に謝りました。
ただ冷静にその時の場面を思い出せば、「本当に申し訳ございません」とまで言うことはできなかったし、
言葉では謝っていても、少し残ったイラ立ちから顔や声のトーンはあまり謝っていなかったかもしれないと振り返ります。
いずれにしても私の臨床能力、ストレスマネジメント、
まだまだ改善の余地ありです。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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