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治すだけが治療ではない

category - 普段の診療より
2017/ 08/ 30
                 
私は神経内科医として進行期パーキンソン病の患者さんを診る機会があります。

とあるパーキンソン病患者さんはベッド上でずっと寝たきりで、

常に無表情で口を開いたままいびき様の痰が絡むような呼吸をしています。

何をするにも意欲や覇気は感じられず、まともに意志表示もできない、ベッド上なされるがままの状態です。

口をずっと開けたままにしているので、口腔内は乾燥し外来異物や細菌が侵入しやすい状況で、

唾液も誤嚥してしまいいつも吸痰が欠かせず、それでもしょっちゅう微熱を繰り返しています。

せめて少しでも病状がよくなるように、こういう患者さんに私は鼻呼吸と深呼吸をことある毎に指導するのですが、

やってくれるのは一瞬だけ、少し目を離すと再び大きな口を開けての口呼吸に逆戻りです。
            

このような状況だと経験的に抗パーキンソン病薬を増量しようが、ビタミンC点滴やグルタチオン点滴をしようが何も効きません。

せめて薬剤の副作用だけは出さないようにと可能な限りの薬剤調整を工夫してみたりはしますが、

それでも状況は好転せず徐々に悪くなっていき、私はそれを見ているより他にない辛い状況におかれます。

以前パーキンソン病はストレスマネジメント不足病だと考察した事がありますが、

こういう患者さんを診ていると、本当の意味で病気を治せるのは本人以外にはいないという気持ちになってきます。

また自分で治ることを放棄した人に対しては、誰のどんな言葉も届かないのかもしれないとさえ思ってしまいます。

それはまるで自分の治療技術の未熟さを棚に上げ、治らないのを患者さんのせいにしているようですが、

正直、心の中にそういう気持ちが沸き起こってしまう自分がいるのは事実です。


この事はパーキンソン病に限りません。

よく見れば、いわゆる病気の末期の状態は寝たきりで動けず口が開けっ放しの状態でいる人が多いです。

異物が入りそうになれば口を閉じて防御する機能が身体には備わっているのに、その機能が破綻してしまっている状態です。

何十年身体を酷使してきた結果なのかもしれないし、パーキンソン病のように神経をすり減らし機能を制御する大元の脳神経から衰弱してしまったのかもしれない。

そこまで来れば単に口が開いているだけの問題ではなく、全身が問題だらけの状態です。

行き着く所まで行き来ってしまったその結末は死あるのみ、それを受け入れるしかないのかもしれません。


知ってか知らずか病気から戻る術を見失ってしまった患者さん、

私の言葉も治療も、たとえ届かなくてもせめて苦痛だけでも取り除きたい、

そのためには具体的にどうすればいいのか。

鎮静をかけるのがよいのか、副作用覚悟で反応するまで薬を増量するのがよいのか、

はたまたケトン体に最後の望みをかけて、回復の兆しが出るまで必要最小限補液のみにするのがよいのか、

こういう患者さんを診る度に悩む日々です。

長い年月をかけて起こってきた代謝の破綻や停止状態を、

何か画期的な方法でなかったことにできるとも到底思えません。

仮にそんな夢のような方法があったとしても、それを施すことが本当に正しいことなのか、

勿論、医師の仕事の目的の一つは病気を治すことかもしれませんが、それ以前に病人を診ています。

必ずしも自然の流れに逆らって病気を治す行為だけではなく、

自然の成り行きが進んでいくのを苦痛がないようにサポートしていく技術も求められているように思います。

最善の答えはないかもしれませんが、

最善に近い答えを常に探し続けていたいと思います。


たがしゅう

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コメント

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No title
2年前、PDの母が他界する一月半前、病院へ見舞いに行ったとき、その患者さんのような状態でした。
日中でも意識が飛んだような状態があるため、もう少し進んだ状態かも知れません。
やっと少し会話出来る状態になったとき母が言ったのは、私はここの病院で良い(このままで良い)というものでした。
その直前に私と先生が話していた会話が聞こえていたのです。
話の内容は先生から、もう食事で栄養を摂るのが難しくなってきてること、町の小さな医院なので胃瘻を行うことは出来なく、その際は大きな病院へ転院するしかないこと、今はブドウ糖とビタミンの点滴しか出来ないこと、脂肪製剤の点滴も出来ないこと、色々と望むことがあるなら転院するしかないこと等々。
それを聞いて、最後まで私に負担を掛けたくないとの親心だったのだと思います。
たっぷりあった体脂肪も半年の入院ですっかり無くなってしまってました。
胃瘻で糖質を取って欲しいとは微塵も思っていませんでしたが、せめて脂肪だけでも補ってもらえたら、もしかしたら糖質だらけの病院食から解放され体調も良くなって行ったのではないかと思います。
現在の医療で、PDが良くなる唯一の望みはケトン体だと思います。
Re: No title
福助 さん

 コメント頂き有難うございます。
 辛い経験でしたね。

 私は重症のパーキンソン病の方が微小誤嚥を起こすなど絶食療法の妥当性がある時には
 糖質を極力絞った点滴にビタミンを補いながら補液してケトン体産生を促すように仕向ける事があります。
 
 しかし、まだ症例数はそれほど多くありませんが、正直言ってそれほどの効果は得られていません。
 十分なケトン体があっても、それを利用できなくさせる程、パーキンソン病においてストレスマネジメントの問題は大きな要素なのではないかと私は考えています。

 ケトン体は確かに希望の星ではありますが、それだけでは何とも克服し難いのが神経変性疾患の世界のような気がします。
鼻呼吸が苦手な理由
たがしゅう先生、こんにちは。
今回の記事を拝読して、数年前にCOPDで亡くなった主人のことを思い出しました。
彼は、最後のほうは、ずっとCPAPを装着していましたが、それを装着すると、かえって血中酸素飽和度が下がる、という状態になっていました。
理由は、鼻中隔湾曲があり、片方の鼻孔がほとんどふさがった状態だったため、よほど意識していないと、どうしても口呼吸になってしまうから、でした。
鼻中隔湾曲があるだなんて、かなり状態が悪くなった頃に、たまたま耳鼻科で診てもらうまで、気づかなかったのです。
ここまで状態が悪くなる前に、このことに気づいて、手術してもらっていれば、もっと鼻呼吸がラクにできたかもしれないのに、と思ったことでした。
もしも、そのような理由でどちらかの鼻孔がごく狭くなっていた場合には、鼻呼吸をいくら指導されても、あるいは、理学療法士さんに鼻呼吸の訓練法を教えていただいても、鼻呼吸をすることは、なかなか難しいです。
なんらかの理由で、呼吸がスムーズにいかない方は、そのような可能性も、早めにチェックしておかれたら、後々寿命がのびることになるかもしれないな、と思ったことでした。
Re: 鼻呼吸が苦手な理由
みか さん

 コメント頂き有難うございます。

 なるほど。口呼吸になりやすい器質的な原因がある場合は本人努力ではカバーできないところがありますね。
 通常見えにくい部分であるだけに、その目で見ないと見落としそうです。意識しておこうと思います。
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