複雑系×複雑系=未知数
2017/08/28 00:00:01 |
素朴な疑問 |
コメント:2件
大平先生の本を読んでいて若干消化不良だったのは、
オートファジーに関する記載がごくごく簡単にしか書かれていなかったことです。
勿論、オートファジーについて本格的に取り上げれば、それだけで一冊の本が出来上がるくらい膨大なテーマですから、
人の基本的な代謝について紹介する今回の本で取り上げれば、それこそ収拾がつかなくなりますので、深く取り上げなかった妥当性は理解できます。
ただ、オートファジーの理論を取り入れるか否かによって、
「タンパク質を食事から摂取し続けなければ生きていけないかどうか」について180度方向性が変わってしまうので、これは決して看過できない問題です。
そしてこの事は今わかっている生化学的事実だけですべてを説明しようとすると、誤解につながるという可能性を示唆しています。 確かにヒトでは必須アミノ酸を合成する酵素は確認されていないので、
それだけ考えれば、ヒトは常に必須アミノ酸を食事から摂り続けなければならないという話になりますが、
現実には不食と呼ばれる食べないことを基本におく生き方で健康を維持している方々もおられます。
その事実が絶対的であり、その事実が現在の生化学的理論で説明できないのであれば、
疑うべきは生化学を通じて得られた私達の解釈の方ではないかと私は思うのです。
この事実を説明しうる一つの切り口がオートファジーであり、もう一つは腸内細菌の関わりです。
何度か当ブログでも紹介した1日青汁1杯生活の森美智代さんは、
度重なる断食を通じて腸内細菌が草食動物化適応を起こし、腸内細菌が食物繊維を材料に必要なアミノ酸や脂肪酸等を合成している可能性が示唆されています。
細菌というのもヒトの大先輩にあたる生命体で、ヒトと大部分共通する代謝システムを持ち合わせています。
ヒトの複雑な代謝マップが生化学的にどれだけ解明されたとしても、
それと似たような別の複雑な代謝マップを持つ腸内細菌が共生し干渉するがゆえに、
ヒト生化学的な理論通りに代謝が進まないとか、ヒトで存在しえないはずの酵素が働いて思わぬ副産物ができたりということが、
実は私達の知らない間で結構起こっているのではないかと私は考えています。
しかもヒトと腸内細菌の1対1の関係でさえありません。
腸内細菌は約3万種類、その数は100兆-1000兆個にのぼると言われています。
複雑系であるヒトと100兆の複雑系の細菌との掛け合わせです。複雑に複雑を極めます。
例えば、私は糖質制限せずともスリムで健康を保っている人達の存在が以前から気になっています。
かたや私は相当に糖質制限を頑張り、運動もまじめに行っているにも関わらず、そうした人には到底及ばない肥満体型です。
体質の違いと言ってしまえばそれまでです。それ以上の思考は生まれません。
しかし、そうした人達のメカニズムにはもしかしたら腸内細菌の介在が深く関わっている可能性があります。
というのも、先日とある漢方の勉強会で次のような話を耳にしました。
貯蔵糖であるグリコーゲンは、通常ヒトの体内では「グリコーゲンホスホリラーゼ」という加リン酸分解酵素が作用する事に始まり、
グリコーゲンからグルコースが切り離されるための化学反応が進んでいくのですが、
グリコーゲンに「α‐1,4グルカンリアーゼ」という別の脱離酵素が作用することにより、1,5-アンヒドロ-D-フラクトース(1,5AF)というグルコースとは全く別の化合物が生成されるそうです。
そしてなんとこの1,5AF、糖尿病治療薬として知られるメトホルミンの有効成分なのだということです。
同じグリコーゲンから、かたや血糖値を上昇させられ、かたやインスリン抵抗性を改善させられる化学反応が起こるというのだから驚きです。
この「α‐1,4グルカンリアーゼ」、ヒトには存在しませんが、一部のカビや紅藻類で観察される酵素です。
もし仮にこの酵素を持つ腸内細菌をヒトが宿していれば、グリコーゲンを含む炭水化物を摂取しても、
それがグルコースへと分解されず、1,5AFへと分解される経路が働いて高血糖の害を受けずに済むという事が起こり得るのではないでしょうか。
そして、そういう見えないメカニズムが実は働いていて、炭水化物を食べても平気な人がいたりするのではないかと私は想像するわけです。
ちなみにこの1,5AFにNADPH依存性レダクターゼが作用すれば、糖尿病の診断にも用いられる1,5-アンヒドロ-D-グルシトール(1,5AG)になります。
尿糖が出るくらい悪い糖尿病の時に、尿中1,5AGが尿細管で再吸収されるのを尿糖が競合阻害するため血中1,5AGは低値となります。
また1,5AGの材料となるでんぷん質を摂らない糖質制限実践者でも1,5AGは低くなります。
ということは1,5AGが高い人こそが、炭水化物を摂取してもダメージが少ない人なのかという妄想も膨らみます。
これはあくまでも可能性の一つに過ぎません。
もしかしたらまだまだこうした隠れたメカニズムが存在しているかもしれません。
常に現実に起こっている現象を重視して、今までにわかっている理論を基にその理由を考える。
考えてわからない場合は、自分の理解力が足りないかもしくはまだ理論が追いついていない可能性を考慮し、
ひとまずその現象を真摯に受け止めて、それでも考えることをやめない姿勢が大事だと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
妥協も必要
しかし解明したからと言ってその現象を人工的に引き起こそうとすると必ずや弊害が起こりますよね。
真は深く、模倣にすぎず、同一のものは作成できないと人は思い知ることです。
生化学をもってある謎の現象を解明出来たと誤解し、新たな病気を生むことも当然あるでしょう。現に起こってはいないでしょうか。
自然の前では人は無力です。
自然災害を例にすると、知識をもって「最小限にするための手立て」は出来ても、「起こらないように」することはできません。
人体にしても、知識で「病気にならない予防策を知る」ことは出来ても「起こった病気を消し去る」ことは出来ないと妥協することが必要だと思います。
妥協と言えば聞こえは悪いのですが、、、
そうではなく
人の自然現象へのアプローチを妥協する事によって、人の健康への意識が「予防」の方へ傾くことが実は本質的であるとの気付き=最高の妥協点
を得ることができる
と感じました。
Re: 妥協も必要
コメント頂き有難うございます。
知ることは大事だと思います。
しかしそれですべてわかったかのように考えてしまうと足元をすくわれるのだと思うのです。
妥協というのともまた違って、完全にわからなくても少しずつでもわかるように前に進み続ける哲学的スタンスが大事だと私は考えます。
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