なんとなくの理解でごまかさない

2017/08/27 00:00:01 | ふと思った事 | コメント:0件

ディベートで勝つための秘訣は自論だけではなく、

打ち負かしたい相手の理論のメリットをあえて調べ尽くすことにあるという話を聞いたことがあります。

私は最近、糖質制限実践者でありながら、あえて糖質の良いところについて深く考えるようにしています。

真っ先に思いつくのは、なんといっても糖質は手っ取り早いエネルギー源になるということです。

しかしこれは糖質のメリットというよりグルコースのメリットであり、グルコースが糖新生システムにより糖質に頼らずに合成できる以上、強いメリットにはなりません。

あるいは人々を魅了して止まないおいしさがあるという点もあります。しかしこれも裏を返せば中毒の形成への道筋を作ることにもなりメリットでもあり、デメリットでもある話です。

そんな中、食品の保存技術で「塩漬け」と並ぶ、「砂糖漬け」について注目してみました。 そのままだと腐ってしまう食品が長期間腐らなくて済むようになるという砂糖漬けの技術は確かに私達に恩恵をもたらしています。
ということは微生物の増殖を抑えるグルコースならではの特徴が何かしらあるのだろうかと考えていたりしたのですが、

大平先生の『「代謝」がわかれば身体がわかる」を読んでみたら、その辺りの謎が解けました。

微生物の増殖を抑えるためには、微生物が発酵に用いる酵素を失活させればよいということで、

そのタンパク質である酵素を失活させるための方法として「乾燥処理」「凍結処理」「加熱処理」「酸性化処理」などいろいろある処理法の中で、

「高濃度処理」というのが砂糖漬けや塩漬けの原理だということなのです。



「代謝」がわかれば身体がわかる (光文社新書) 新書 – 2017/8/17
大平 万里 (著)


(以下、p59-60より引用)

まず、酵素には水が必要である。

酵素にとって水分子は、集中して仕事をこなす時に着る服のようなものである。

裸では仕事どころではないのと同じように、酵素は水分子に囲まれていなければ、何一つできないのである。

基質が水に溶けない場合や、膜の内と外との間で反応が起こる場合などは、

水分子の代わりに脂質の膜に囲まれている酵素もあるが、それでも一部分は水のある部分と接触している。

まあこれは、いってみれば裸の部分が衝立(ついたて)で隠されているような状況だろうか。

とにかく、水分子に囲まれていることは、酵素が機能する上での絶対条件といっていい。

そして、基質もまた水分子を媒介して運ばれてくる。よって、酵素が使える水分子が減ってゆくと、徐々に酵素の働きは低下してゆく。

たとえば、塩化ナトリウム(食塩)やスクロース(砂糖)は、適度な濃度であれば問題はないのだが、

過剰にたくさん溶かすと、溶液中で自由に動けていた水分子が、その食塩や砂糖の方に取られてしまい、酵素は非常に仕事がやりにくくなってしまう

具体的にいうと、食塩なら10%、砂糖なら50%の濃度を超えると、ほとんどの酵素はうまく機能しなくなる。

いわば、狭いオフィスにやたらに人員を投入して、身動きが取れなくなってしまうような状況である。

(引用、ここまで)



何が言いたいかと言えば、食品保存に役立たせるのは砂糖ならではの特性ではないということで、

また化学的な背景がわかっていないと糖質を過大評価することにもつながりかねないリスクがあるということです。

ちなみに砂糖漬けは塩漬けに比べると保存期間がと短く(約1カ月~半年)、また塩に比べて大量の砂糖を必要とするそうです。安全性という意味では塩漬けに軍配が上がります。

強いて言えば塩漬けはそのまま食べたらしょっぱすぎるので塩抜き作業が必要ですが、

砂糖漬けの場合はそのまま食べられるという所は利点でしょうか。しかし冒頭の中毒性の観点からすればこれはメリットであると同時にデメリットでもあります。

物事を正しく理解しようとするときの秘訣はこういう所にあるのではないかと私は思います。

こと人体を正しく理解しようと思えば、生化学的な知識は非常に役に立ってくれるのではないでしょうか。


ただ、このブログで繰り返し述べておりますが、

生化学ですべてが説明できるとおごりたがぶってはいけません

「まだ未解明な点があるということはわかるが、それでも大筋は解明されたので生化学に従ってよいのではないか」という意見もあるかもしれませんが、それも私は賛成できません。

なぜ賛成できないかはまた次の機会に語らせて頂きます。


たがしゅう
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