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見えない世界が見えるように

category - おすすめ本
2017/ 08/ 26
                 
夏井先生が科学・化学の師匠と仰ぐ、大平万里先生の著書、『「代謝」がわかれば身体がわかる』を読みました。



「代謝」がわかれば身体がわかる (光文社新書) 新書 – 2017/8/17
大平 万里 (著)


実はこの本、その存在が明らかになってから私は読むのを大変楽しみにしておりました。

というのも、夏井先生の「新しい創傷治療」のサイトに時々寄せられる大平先生のものと思われるコメントは私にとって非常にわかりやすいものであったからです。

生化学の話は少なくとも私にとっては大変難しい話です。
            

その難しい話をわかりやすくかみ砕いて説明する事ができる人は、学力という事ではなく、本当の意味で頭のいい人だと私は思っています。

そして頭の良い人は物事の本質をみています。

この本の中では、巧みなたとえがたくさん出ています。

たとえる事がうまいという事は、一見別々のように見えるものであってもその中に共通する構造がある事を見抜く力に長けているということです。

たとえ上手は天才の必要条件であり、そういう意味でも私はこの本から頭の良さをひしひしと感じました。

一例を紹介します。食物を食べて栄養素を消化・吸収する過程は会社の新人採用試験のようなものだとたとえる下りで、

大平先生は糖質を次のようにたとえています。

(以下、p339より引用)

(前略)

糖質は契約社員のような存在ともいえるだろう。

すなわち、即戦力としてすぐに現場で活躍できる彼らを投入することで、

人材育成その他のコスト(エネルギー源にするコスト)を会社は削減できるわけである。

ただし、グルコースは、脂質の章で述べたように、過剰に存在すれば、体内のタンパク質や脂質を変質させて慢性病の原因となる。

また、余分なグルコースがある限り、中性脂肪が合成されてしまうのも問題である。

これは、企業が極度に契約社員に依存しすぎて、人件費以外の本質的な経営努力が疎かになるような状況であろう。

(引用、ここまで)



グルコースのエネルギーとしての利用のしやすさと、契約社員の即戦力性に共通構造を見出した見事なたとえです。

そしてここから考えれば糖質制限という行為は、

契約社員に頼らずに社内教育を行き届かせて自社の持つ本質的な経営能力を高める行為
だという事にもつながります。

私達の行っている糖質制限がどのような意味を持つかという事がより深く実感されるのではないでしょうか。

今私がいる病院で行っている改革もある意味糖質制限のようなものかもしれません。


無から有は生まれません。

そういう意味で生化学の今そこにある物質の組み立て方を変えて様々な物質を生み出すことを論理的に説明するスタンスは、

人体を理解する上で、そして時折飛躍しそうになる私達の思考をまっとうな位置に引き戻してくれる道標だと思います。

過去数多の生化学者達が代謝の解明に取り組み、一つ一つの成果が蓄積されていった結果、

今私達が教科書で当たり前のように目にする代謝マップが明らかになった事を思うと、先人への感謝の気持ちが絶えません。

しかしその一方でその気の遠くなるような複雑さに圧倒され呆然と立ち尽くしてしまう所があるのも生化学の世界です。

そんな中、この本は複雑怪奇な生化学の世界を日常に私達が経験する事象になぞらえて、

私の知る限り最も庶民レベルに近づけることができた本ではないかと思います。

ただ正直言って、それでもやっぱり難しいです。

特に中盤の代謝でGOの所を読み進めていくのは相当骨が折れます。私自身、1回読んだだけでは理解しきれていません。

その意味でこの本は読者を選ぶかもしれません。

でもそれは必然的な難しさであり、あまりかみ砕き過ぎると本質が見えなくなり下手すれば嘘をつくことになりかねません。

そのギリギリのインコースを攻めた形なのではないかと私は思います。

少なくとも生化学の教科書を最初から読み解いていく作業の大変さと比べたら、かなりハードルを下げてくれている本です。

骨が折れるけれど頑張って読み進めることで新しいことに気付いたり、勘違いしていた箇所を改めたりすることができました。

その具体的な学びについてはまた折をみてこの場で紹介させて頂きますが、

まずは生化学をここまで身近なものに感じさせてくれた大平先生に感謝したいと思います。


たがしゅう
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Re: No title
奈良県吉野郡けんさん さん

コメント頂き有難うございます。
読みました。
たがしゅう先生、こんばんは。

私も大平先生の著書を読みました。
代謝の全体像が見える良書ですよね。
他の本でエネルギー代謝を勉強すると、何度も何度も同じ個所を読み返さないと理解できませんし、専門用語も知ってて当たり前といった記述が多いので、違う本を買ってさらに知識を身に着けたりと手間がかかり過ぎます。

その点、大平先生の著書は一般向けに書かれてますし、手書きの図が豊富なので内容が頭に入ってきやすいです。

同書を読むと、代謝は全体を俯瞰することが大切だと気付きました。代謝の一部分だけを知ると、カーボローディングのようなことをしてしまい、おかしな方向に行ってしまうような気がします。
Re: 読みました。
ミスターT さん

 コメント頂き有難うございます。

 御指摘のように、代謝は全体を俯瞰できていないと、聞きかじった代謝の一部だけの情報で自分達に都合のよい論理を展開してしまう危険性があると思います。カーボローディングもそうですし、「乳酸は疲労物質」なる話もその類だと思います。

 御自分で図を書かれているというのがまたすごいです。
 図を描くということが御自身の中での理解をさらに深めているように思います。