糖質摂取と犯罪
2017/08/24 00:00:01 |
よくないと思うこと |
コメント:6件
さて昨日の続きで、
「刑務所の2型糖尿病患者に高カロリー高炭水化物食を1日3回規則的に提供して糖尿病の数値が著しく改善しているのは何故か」についてです。
その前に、こまごまとした所に対して反論しておきましょう。
①『香川県民の平均寿命は、47都道府県中男女とも19~20位で、全国的にはむしろ長寿県だ。』について
そもそも真ん中くらいの19~20位を「長寿」と解釈するところに私は恣意性を感じますが、
長寿であれば糖尿病に罹患していてもよいのでしょうか。
例えば、糖尿病に罹患して脳梗塞を合併し麻痺が残って胃瘻造設して要介護状態になっても寿命は長くなります。
香川県で問題になっているのは糖尿病の人口の多さです。そこに目を向けずに平均寿命が高いから大丈夫だというのは問題のすり替えに他なりません。 平均寿命だけでなく要介護状態を外した健康寿命で見なければ真の健康度を推し量ることはできません。
そして実際、香川県の健康寿命を調べてみると、2013年度の調査で男性が38位、女性が40位とかなり下位の部類に入っています。
香川県の糖尿病問題は平均寿命の長さでもって解決しているとは到底言えないのです。
②『米の消費が最低となった現代、もしも炭水化物が肥満や糖尿病の原因であるならば、明治、大正、昭和、平成と時代とともに肥満は減少し、「かつて国民病であった糖尿病が最低レベルまで減少しました」とならねばならない。』について
このトリックは以前にも同様のケースがありましたが、
炭水化物は米だけではありません。パン、麺類、イモ類のことを忘れてはいないでしょうか。
正しい理解は、「戦後、食の欧米化と呼ばれる食事の高脂質・高蛋白食化により国民の健康寿命は底上げされていたが、
インフラが整い、糖質を中心とした食事の流通が進んできた1980年代頃からは炭水化物全体の割合上昇とともに糖尿病の罹病者数が急増してきた」ではないかと私は思います。
③『でんぷんなど複合糖質を、砂糖やブドウ糖果糖液糖などの単純糖質とひとくくりにする議論が多いが、血糖上昇に及ぼす影響は著しく異なる。』について
単純糖質、複合糖質という言葉は、同じく糖質制限批判を展開している栄養士幕内秀夫氏の主張の中にも出てきましたが、
これらの言葉は正式な医学用語ではありません。幕内氏もこれは一般的に使われている用語ではないがと断りを入れておられます。
それなのにまるで当たり前のように単純糖質、複合糖質という言葉が使われているのに私は大きな違和感を感じます。
単糖類という言葉はあります。グルコース、フルクトース、ガラクトースなど糖類の構造を持っていてそれ以上加水分解されないものですが、
ここで言う単純糖質というのは砂糖(スクロース:二糖類)とかブドウ糖果糖液糖(異性化糖)の文脈で用いられているのでそれとは違う言葉です。
厳密に言えば「複合糖質」という言葉は生化学の中にあります。しかしその意味は「タンパク質や脂質などが糖に結合したもの」です。
でんぷんのように糖質に食物繊維が加わっているものを複合糖質と呼びたいのならそれは「炭水化物」の間違いだと思います。
調べてみると、日本糖質制限医療推進協会のFAQにもその点は明記されています。
以上3点、この記事の問題点についてまずは指摘させて頂きました。
さて本題に戻ります。刑務所の高カロリー食で糖尿病患者の数値が改善したのはなぜでしょうか。
それを考えるには正直言って材料が足りません。なぜならば、今回対象となった受刑者患者の入所前の食生活情報がわからないからです。
原著を読みますと、入所中の食事は2518±226kcalで、炭水化物は66–61%、蛋白質13–14%、脂質21–25%、食物繊維28.4±2.1gとなっていて、
朝、昼、夕と1日3回規則正しく提供されています。清掃、料理、土木などの労働は週40時間平日のみで、土日は食事時間以外はフリーとなっているようです。
論文の中では刑務所の食事で出されていた麦飯に食物繊維が豊富であった事が大きな理由だったのではないかと考察されていましたが、
確かに食物繊維の存在は血糖値の吸収を送らせて糖尿病を改善させる可能性がありますが、
いかに食物繊維が多いと言っても、せいぜいα-グルコシダーゼ阻害剤くらいの血糖降下作用しかもたらさないのではないかと推定されるので、これだけで血糖値を改善させているとは私には考えにくいです。
また運動と言っても軽作業であって、自主的に筋トレしていた人もいたかもしれないけど、集団として全員がやっているとも思えないので運動で説明するのも無理がありそうです。
そうなると残された可能性は、
実は入所前に3000kcal以上、間食も際限なしというような食生活をしていて、
刑務所に入って2518kcalとなり、相対的に糖質の量が減って、また間食禁止で食事と食事との間の間隔も開いたことで、
糖代謝が改善したと考えるのが最も妥当なのではないかと私は考えます。
あくまでも推測に過ぎませんが、弱いながらもそう思う根拠があります。
そもそも犯罪を犯したような人達です。犯罪はどういう時に犯すでしょうか。
以前私はドーパミンと衝動性およびストーカーとの関連について考えた事があります。
糖質過剰摂取でドーパミンが過剰分泌され衝動性が高まります。いわゆる病みつきとか止められない止まらないといった感覚です。
普段の精神状態なら我慢してぐっと踏みとどまる所をドーパミンが働くことで衝動的になり、あらぬ冒険心が生まれて犯罪を犯してしまうという構造は多かれ少なかれあるのではないでしょうか。
となれば受刑者達には衝動制御困難なドーパミン分泌異常をきたすほどの糖質過剰摂取の背景があったという推測もあながち的外れではないような気がするのです。
少なくとも、この刑務所のデータでもって高炭水化物食の有用性を証明するには不十分です。
高炭水化物食でも改善するくらい入所前が超高炭水化物食状態であったかもしれないからです。
もしどうしても高炭水化物食の優位性を証明したいのなら、刑務所内で高炭水化物食と糖質制限食とを比較するデータが不可欠となってきます。
この刑務所データだけでは糖質制限を否定する材料として使えません。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
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Re: 刑務所内での生活
コメント頂き有難うございます。
確かに御指摘の要素も少なからず影響していると思います。
裏を返せば入所前の生活がいかに乱れていたかということにもなるかもしれません。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
前向きに検討させて頂きます。
No title
肩書があり、影響力のある人物が、歪んだ意見を言い、
初心な素人さんが洗脳される、という流れが一番困ります。
現在私が住んでいる、「うどん県」こと「香川県」は、
大人だけでなく、子供の糖尿病も深刻です。
しかし、一部の香川県は間違った方向へ進もうとしています。
「食育」の一環として、幕内氏の講演会を頻繁に開催しています。
火に油が注がれています。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
集団が変わらなくとも個人はその人次第でいつでも変わる事ができます。
急がば回れの気持ちで、わかる人に着実に伝えていけばいつしか集団も変わってくれることと私は思います。
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