文章から感じられる攻撃性
2017/08/23 00:00:01 |
よくないと思うこと |
コメント:8件
糖質制限否定派の医師の常套文句、「長期の安全性が保証されていない」
私が糖質制限を知ってからだけでも5年以上の歳月が流れ、
保証されていなかった長期の安全性が、個人レベルでは十分に保証される時間の長さになってきました。
それでもエビデンスしかみない医師は、これからもずっと「保証されていない」と言い続けるのかもしれませんが、
少なくとも普通の感覚を持った人なら、「長期の安全性が保証されていない」というフレーズでは糖質制限を批判しにくい状況になってきています。
従って、糖質制限を批判するなら、別の確固たる理由を新たに持ってくる必要が出てきますが、
いろいろな批判フレーズがすでに言い尽くされている中、先日とある医学雑誌で新しい批判パターンを目にしました。
本日はその記事を題材にその批判が妥当か否かを考えてみたいと思います。 糖尿病診療マスター 2017年 6月号 特集 腸内細菌 糖尿病・肥満にまつわる10 topics 雑誌
– 2017/5/29
トピック9 「プロバイオティクスと糖尿病療養指導 日常診療における留意点」
赤井 裕輝(東北医科薬科大学 糖尿病代謝内科)
(以下、p517-518より引用)
【糖質制限の方向がずれている -単純糖質と複合糖質を区別したい】
経済専門誌「日経ビジネス」に2016年、「糖質制限パニック:企業も地方も大わらわ」なる特集が組まれた。
表紙には「ラーメン 麺ぬきあります」と書かれたラーメン屋の提灯、次のページにはシャリ抜きの鮨の写真。笑うに笑えない。
讃岐うどん目当ての観光客が押し寄せている香川県では県庁が、「うどん店に野菜物をもっと置いて、うどんのみにならないように」と指導を始めたとある。
大阪府でも府庁が、お好み焼き、たこ焼きをやり玉にあげるありさま。
糖質制限で有名なE医師とY医師の説を紹介しながら、市民の慌てよう、行政の慌てよう、儲けにつなげようという企業の動きを紹している。
ここでいう糖質は米や麦のみであり、砂糖やブドウ糖果糖液糖には一言も触れていないのには驚いたが、E医師、Y医師の指導なのであろうか。
ちなみに香川県民の平均寿命は、47都道府県中男女とも19~20位で、全国的にはむしろ長寿県だ。うどんをたくさん食べても短命にはなっていない。
弥生時代以来1,500~2,000年にもわたって、日本民族は米、サトイモ、足りなければ雑穀を食べ、生きつないできた。
民族史上、米の消費が最低となった現代、もしも炭水化物が肥満や糖尿病の原因であるならば、明治、大正、昭和、平成と時代とともに肥満は減少し、
「かつて国民病であった糖尿病が最低レベルまで減少しました」とならねばならない。しかし事実は180度、逆なのである。
誰でも知っているこの事実には目をつぶり、糖質制限を勧める人、信じて実践する人は、何かに取り憑かれているのではないかと考えたくなる。
糖質制限食を支持する確実なエビデンスは少ない。
普通の生活をしている被験者に、糖質量を多量であっても少量であっても、長期間一定にした生活、という客観的評価に耐える研究デザインなどどうしても無理である。
ましてや、甘い間食をどう評価するのか、唯一確実な成績が期待できるのは壁の中での集団生活であると思われるが、
F刑務所での成績を以下に紹介する。
刑務所では日本人男性の平均摂取エネルギー2138kcalを上回る2200~2600kcalの食事が提供され、この60%強が麦飯による炭水化物である。
たんぱく質は13~14%、脂質は21~25%、見事なバランス重視の高エネルギー食だ。
この食事で7年間過ごした2型糖尿病受刑者109名の、空腹時血糖は入所時の184±74mg/dLから出所前には113±38mg/dL(mean±SD, p<0.001)、
HbA1cは入所時の8.4±2.1%から出所前には5.9±1.2%(mean±SD, p<0.001)となっていた。
体重の変化は、入所時の65±13kgから出所前には62±10kgで(mean±SD, p<0.001)小幅の減少であった。
そしてインスリン治療者の18%、グリベンクラミド治療者の50%が投薬を中止できたという。
刑務所内の生活は麦飯による高食物繊維の炭水化物60%というバランス食と、週40時間の軽作業、そして、歌詞や清涼飲料の間食が出ないことが重要ポイントである。
作業時間は一般人と変わりないので、高エネルギー麦飯と、間食のないことによる「単純糖質制限食」の威力ともいえる。
さまざまな米や麦にかかる悪いうわさは、濡れ衣であることが明白に示されている。
野菜など食物繊維を多量に含むおかずと、麦飯や玄米ご飯を食べれば、血糖上昇はマイルドになり、心配ない。
このでんぷんなど複合糖質を、砂糖やブドウ糖果糖液糖などの単純糖質とひとくくりにする議論が多いが、血糖上昇に及ぼす影響は著しく異なる。
これらは分けて議論し、患者にも区別して説明すべきである。
(引用、ここまで)
まとめると、「刑務所での高炭水化物食の有用性を示すことで糖質制限の不透明性を強調する」という手法です。
本質的には「長期の安全性が保証されていない」という批判パターンの亜型とも言えるかもしれませんが、私が今まで見なかったパターンには違いありません。
しかし、この論理って、とても奇妙に感じられるのは私だけでしょうか。
本論を主張するのにとてもレアな事象を持ち出しているというような違和感があります。
たとえるなら学校の宿題をやりたくないこどもが、学校に行かずにノーベル賞を受賞した有名な研究者の話を持ち出して、だから自分も宿題をしなくていいと言っているような奇妙さです。
著者の先生は、「普通の生活をしている被験者に、糖質量を多量であっても少量であっても、長期間一定にした生活、という客観的評価に耐える研究デザインなどどうしても無理である」という疫学的食事調査の根底を覆すようなことを書かれていますが、
それだとDCCT(高血糖の記憶を示した研究)やACCORD(薬剤による強制血糖降下の危険性を示した研究)といった大規模疫学研究も信用に値しないという事になるのでしょうか。
糖質制限食のエビデンスはDIRECT試験を始め、NEJMやJAMAなど有名医学雑誌に載った論文などもたくさんあります。それこそ江部先生がこれまでにブログや書籍などでたくさん紹介されてきています。
この事実に目をつぶって高炭水化物食の有効性を強調するのは読者をミスリードしてしまうと私は思います。
それにこの書き方だと、7年間高炭水化物食を与えて問題がなかったという印象を読者は受けてしまうと思いますが、
実際の論文を取り寄せて読んでみたら、「受刑者の刑期は数日~8年と様々で、多くは6ヶ月~4年まで」と書かれており、
問題の109名の2型糖尿病のある受刑者の実際のフォローアップ期間は14±10ヵ月、即ち1~2年程度です。
DIRECT試験の最長追跡期間は6年です。参加人数もDIRECT試験の方が上回っています。それだと刑務所の食事の方が長期安全性が保証されていないことになりませんか?
要するに、著者の先生は見たいものだけを見て、見たくないものは見ていないだけの話だと私は思います。
一方で、それは私達全員に通じる人間の本質的な性質でもあると思うので、自分が論じる時にも常に注意していなければならないことです。
一つの目安は、その文章を読んでいて攻撃性が感じられるかどうか、です。
読んでいてやたらと攻撃性を感じる文章は、その時点で中立的な立場には立てていません。何かを制圧したいという征服欲がある証拠だと思います。
少なくとも私はこの引用文を読んでいて、それを感じました。
別の言い方で言えば、「余計な一言」とも表現できるかもしれません。
他にもこの記事に関して反論したいことや考えさせられる点はたくさんありますし、
とは言え、刑務所の2型糖尿病患者に高炭水化物食でデータが改善したのはどう考えるのかという点についても意見があるのですが、
長くなりそうなので次回に回したいと思います。よろしければ皆さんも考えてみて下さい。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
推理
退所時には刑務所でのおつとめを終えて心も更生して、ストレスが軽減されたから血糖値が下がった。
というのがドラマなどから想像する私の推理です。
「手紙」という東野圭吾さん原作の映画で、玉山鉄二さんが演じる殺人犯が思い出されました。
Re: 推理
コメント頂き有難うございます。
確かにストレス性の血糖上昇の要素もあるかもしれませんね。
個人差が大きくストレスの量がなかなか可視化できないので、どの程度関わっているかは明言できませんが、大いにありうる話だとは思います。
いずれにしても刑務所でのデータは非常に特殊なケースです。それで全体を語ろうとするのは無理があると私は思います。
No title
それに比べりゃ刑務所どうこうは悪くない筋に思えます。つっこみどころは一杯ありますが。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
糖質制限批判の論調も数年前とは大分変ってきたように思えます。
公然と「日本人は農耕民族だから~」と言われている場面を私は最近見かけなくなりました。
「短期的な効果は認めるけれど、やっぱりバランスのよい食事の方が安全」というように糖質制限の危険性についてあまり触れない論調が多いような気がします。今回の刑務所の話もそうした論調の一つだと思います
Facebook での論考
https://www.facebook.com/search/top/?q=%E9%88%B4%E6%9C%A8%E5%8A%9F%E3%80%80%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E5%88%91%E5%8B%99%E6%89%80&epa=SEARCH_BOX
Re: Facebook での論考
コメント頂き有難うございます。
この文献は「収容前にどんな食生活だったのか」という肝心な情報が抜けているので、
如何様にも解釈できる余地を残す不完全な論文となってしまっていると私は思います。
少なくともこの文献の価値を疑えないようでは、論拠に乏しいと思わざるを得ません。
相対的な比較の問題では?
それに比べて刑務所での食事はいわゆる「バランスの良い食事」と言う、相対的な問題だと思ます。
想像ですが、一般の食事では脂質の割合は刑務所の食事に比べてもっと多いように思います。炭水化物だけが悪いのではなく、炭水化物と脂質の同時摂取が最も悪いのだと考えます。
そして、刑務所が糖質制限食なら、もっと良くなった可能性も否定できません。これは、糖質制限否定論の場合にも言えることで、高糖質で糖尿病が良くなったのではなく、それまでの食事に比べてマシになったのであって、糖質制限すればもっと良くなったかもしれません。
Re: 相対的な比較の問題では?
コメント頂き有難うございます。
> 糖尿病に至るまでの食事がどのようなものであったかにもよるのではないでしょうか。
おっしゃる通りだと私も思います。
この文献では確定的なことは何も言えません。
それ故にこの文献のデータを元に何かを決めつけるような発言をする人がいるのだとすれば、それは科学的に不誠実な態度だと言わざるを得ないと私は思います。
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