ストレスの存在を見抜く術

2017/08/14 00:00:01 | 漢方のこと | コメント:2件

ストレスが様々な病気に関わっていることを記事にしましたが、

本日はそのストレスが処理しきれていない状況を客観的にどう捉えるかという事について考えます。

ポイントは自律神経過剰刺激によってもたらされる微小循環障害です。

全てのストレス性疾患は、煎じ詰めればこの微小循環障害から始まると言っても過言ではないほどです。

この微小循環障害の事を漢方医学では「瘀血(おけつ)」と呼びますが、

この「瘀血」こそが、処理できないストレスを身体が抱えている事を示す表現型の一つと言えるのです。 「瘀血」で表される微小循環障害で対象と捉えられているのは、細動脈、細静脈、毛細血管といった非常に小さな血管です。

エコーや脈波、内皮機能推定検査で扱う血管よりもずっと小さいレベルの話なので、現代医学では問題として認識さえされない事がほとんどです。

そんな細かいレベルの話を、漢方はどうやって見抜くのかと言われれば、基本的には問診と診察です。検査は行いません。

「痛む、しこる、黒ずむ」が瘀血の三大徴候と言われています。

具体的には、繰り返す頭痛、長引く肩凝り、顔色不良、肌のくすみ、強い生理痛、しみ、そばかす、あざができやすい、冷え症などがあると「瘀血」の存在が疑われます。

なんだか一部鉄不足の症状と重なるようにも見えますが、

瘀血がストレス過多の一表現型で、ストレス過多が鉄の吸収障害や再利用阻害をきたすことを考えれば、

整合性がとれますし、単に鉄を補うだけではこれらの症状を克服できるとは限らないということもわかると思います。


また、診察で瘀血を診るには舌と腹が参考になります。

舌の裏には舌下静脈という細かい静脈がありますが、ここの循環が悪くなり舌下静脈が怒張するのが典型的な「瘀血」の所見です。

一方、お腹では、臍の少し右下と左下の場所を垂直に押さえて痛みがある場合、これを「瘀血の圧痛点」と呼びます。

この場所は上からの上腹壁動脈と下からの下腹壁動脈が丁度途絶える、いわゆる分水嶺領域なので微小循環障害が出やすい部位なのです。

経験則で導き出した瘀血の圧痛点が、解剖学的にも理にかなっている事を示す形であり、見事としか言いようがありません。

ただ自律神経過剰刺激症候群で見られるように、これら瘀血の所見が誰にでも均等に出るわけではありません。

自律神経過剰刺激の影響が遠隔的にもたらされ、その影響範囲には個人差があります。舌下静脈は怒張しているけど、瘀血の圧痛点が見られないことなどざらにあります。

だから当てにならないと考えるのではなく、個人差を踏まえ総合的に瘀血の程度がどれくらいかを判断する、漢方とはどうしてもそのファジーさと共存しなければならない医療なのです。


しかし、ここまで言っておきながらなんですが、

瘀血はストレス過多の一表現型ではありますが、瘀血の原因が必ずしもストレスだけとは限りません。

運動不足、栄養失調、寒冷刺激など、自律神経を過剰刺激しうるものであれば種類を問いません。

だから瘀血を見たときにストレス過多だと決めつけるのはよくありませんが、

何らかの理由で自律神経が過剰に刺激されていることを推測する手立てにはなるかもしれません。

そしてこの複雑に入り組んだ現代社会において、瘀血がストレス過多を反映している場面も決して稀ではないように私は思うのです。

上述の問診や診察での所見に加え、私が大事にしているのは話をした時の印象です。

例えば、矢継ぎ早に語りかけてきたり、何となくどんよりとしていたり、笑顔が見られなかったり、といったようなことです。

もしそうした印象を受けて、問診や診察で瘀血の所見が複数確認されれば、

その患者さんに解決できていないストレスの問題が存在していることを疑います。

そしてストレスマネジメントを意識しつつ、当座の症状を改善させるため、瘀血を改善させる作用を持つ漢方薬を使う事を検討します。

駆瘀血薬(くおけつやく)と呼ばれるそれらの薬は多数あるので紹介はまたの機会に致しますが、

漢方にはそうしたストレス過多の状態に対応する具体的な手段があるということです。


印象だとか、表情だとか、肩凝りや痛みだとか、

これらは数値化したり、科学的に判断するのが難しい領域です。

しかし、こうした数値化できないところにこそ、

大切な情報はたくさん隠されていると私は考える次第です。


たがしゅう
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コメント

ストレス

2017/08/18(金) 17:16:21 | URL | さっちぃ #-
初コメント失礼致します。
ストレスの存在は理解出来ます。
しかしながら、医学において実に都合の良い言葉だとも思っています。
ストレスって、人体の何処で察知して判断しているのでしょうか?
ホルモンの分泌量や血中の成分等は、ストレスを判断する為の目安に過ぎませんよね。

専門医の立場として、如何にお考えでしょうか?

Re: ストレス

2017/08/18(金) 17:39:02 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
さっちぃ さん

 御質問頂き有難うございます。

> ストレスって、人体の何処で察知して判断しているのでしょうか?

 暑熱や寒冷、有害物質など原始的なストレス源は皮膚とか腸とかが感知している部分もあると思いますが、
 我々がイメージしやすい、いわゆるストレスを感知しているのは多くの場合、脳だと思います。

 逆に言えば、脳の在り方、すなわち物事の考え方や捉え方を変えることで、ストレスは適切にマネジメントできる可能性があります。

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