姿勢異常は自律神経を酷使する
2017/08/08 00:00:01 |
運動に関すること |
コメント:6件
日常診療の中で肩こりのある患者さんには高頻度で遭遇します。
高齢者を診る機会が多いからというのもあるでしょうけれど、大抵聞けば肩こりありと答えますし、
肩こりがないけど頭痛があるというような人の肩を触れると筋肉が非常に緊張しているのを多々経験します。
私は基本的に肩こりは感じていませんが、以前いた病院で電子カルテで夜遅くまで仕事をしていた時などは終わり頃によく肩の痛みと緊張を感じていました。
肩凝りが主因で頭痛をきたす病態のことを緊張型頭痛と呼びますが、
緊張型頭痛には糖質制限が有効であるものの効果を示すまでに時間がかかり、即効性という意味では片頭痛に比べて弱い印象を持っています。
それは緊張型頭痛をもたらす肩こりの原因が糖質過剰摂取だけではないからであろうと思われます。 私が長時間のパソコン作業で肩こりが誘発されたように、姿勢という要素は肩こりの成因に深く関わっています。
パソコンを長時間行っていると無意識に首が前のめりになります。
頭はボーリングの球のように重たいと言われ、首が前のめりになるということは、その重さを支える負担が首により強くかかるという事になります。
目の前の作業に集中しすぎていると首に負担がかかっているまま気付かずに長時間が経過してしまい、
痛みや緊張という黄色信号が身体から発せられることでようやく異常な姿勢をとっていたことに気付かされるのです。
現代生活の中で姿勢異常を起こしやすくする要因はパソコンだけではありません、
今やほとんどの国民に普及した携帯電話やスマートフォン、商業的にはこれ以上ない大成功をもたらしたと言えるでしょうけれど、
それを使う時の姿勢は前傾姿勢になりがちです。話題のスマホ歩きともなれば通常歩行ではありえない前傾で歩くことになります。
それだけではありません。もっと身近なところではソファがあります。あるいは座り心地のよいふかふかした椅子です。
私は引っ越しの時に椅子を捨てたという話を以前しましたが、ソファだけは残してしまっていました。
それにより私が普段家で過ごす時の多くの時間はソファで過ごすことになってしまっているわけですが、
ソファというのは身体がアルファベットの「C」のような形で深く座って安定するものです。
そのような形では姿勢を保つのに用いる筋肉が無意識のうちに使われなくなります。
そうパソコン長時間作業にしても、スマホ携帯見ながら歩きにしても、ソファに楽に座る姿勢にしても、
共通するのは姿勢を保持するために用いる深い部分の筋肉、いわゆるインナーマッスルの機能を衰えさせるという点です。
インナーマッスルとは正式な医学用語ではありませんが、身体の深い部分にある筋肉のことで、
具体的には、股関節周囲にある腸腰筋、小殿筋、外旋筋群、
肩関節周囲にある回旋筋群や前鋸筋、小胸筋など、
身体の中心部分にある脊柱起立筋群や腹横筋、横隔膜、骨盤底筋群などが挙げられます。
これらの筋肉は一般的な筋トレでは鍛えにくい場所だと言われています。
上記のような姿勢異常をもたらす習慣は、いわばインナーマッスルがなすべき役割をアウターマッスルに肩代わりさせるような行為なのです。
だから前のめりの姿勢を取り続ければ首の表面のアウターマッスルがガチガチに固くなってしまうのだと思います。
そしてインナーマッスルの機能が低下することは、自律神経の機能低下とも密接に関わっています。
なぜなら良い姿勢がとれることは、リラックスしやすいということを意味します。
リラックスしやすいということは副交感神経の活性化がスムーズに行われるということです。
もしも悪い姿勢のままリラックスしようとすれば、副交感神経にはかなりの負荷がかかります。
それが一時的えあればまだよいですが、何度も何度も繰り返し副交感神経に負荷がかかるような状況が続けば、
次第に副交感神経が疲弊し、必然的にシーソーの関係にある交感神経が過緊張の状態へとなりやすくなってしまいます。
従って、悪い姿勢は無意識に自律神経を酷使する事にもつながってしまうわけです。
このような話はなんと言うか庶民的で、医学的根拠に乏しいのではないかと思われる方もいるかもしれません。
しかしこんな話があります。パーキンソン病という神経難病では時折首下がりという症状を合併することがあります。
その名の通り首が前にがくんと垂れ下がった状態で顔を正面に容易に持ち上げることができなくなってしまう症状のことですが、
こうした患者さんの後頚部を触れてみるとまるで岩のように筋肉が固くなっていることがわかります。
パーキンソン病には自律神経障害の合併がつきものです。いわば首下がりはパソコンやスマホなどの長時間使用時に見られた前のめり姿勢の極致型だと言えるかもしれません。
そして現代医学においてこの首下がり症状は非常に難治性です。
一般的にはドーパミンやドーパミン刺激剤の過剰使用による副作用が疑われる場合にはその薬を減量・中止したり、
ボツリヌス毒素注射などの神経筋弛緩法で対症的に筋肉を和らげたり、究極的には脳深部刺激療法を考慮される場合もありますが、いずれにしても難治性です。
その難治のパーキンソン病の首下がり症状に対して、インナーマッスルを鍛えるというアプローチで劇的な改善効果をもたらしたという報告があります。
第50回日本理学療法学術大会(東京)
パーキンソン病難治性首下がり症候群に対する新たな理学療法の検討
シーティング技術とロングブレス呼吸運動の応用により完治した症例
土中伸樹(医療法人養和会 養和病院)
発表されたのは理学療法士の先生ですが、
私はこの先生の発表を直接動画付きで聴講させて頂いた事があります。
まさに百聞は一見に如かずの劇的な効果で度肝を抜かれました。
それと同時にこれほどの効果をもたらしうるリハビリ治療のインパクト、
またインナーマッスルを鍛える事の重要性を非常によく知ることができました。
意識しないと鍛えられない、自律神経とも密接に関わるインナーマッスル、
どうすればうまく鍛えることができるのでしょうか。
長くなるのでこの疑問については次回の記事で考えてみたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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就寝時の姿勢
寝る時の姿勢、先生はどうされてますか。
例えば枕の使用・不使用。
枕の素材もいろいろありますし。
それから仰向け、うつ伏せ。
日野原先生はうつ伏せを勧められていて、ご自身は抱き枕のようなものを利用してうつぶせ寝をされていたと何かで読んだ記憶があります。
個人的にはうつ伏せの姿勢はお腹周辺が仰向けに比べ楽になる気がしますが
頭の向きが難しいなぁと思います。
自然界でお腹を上に向けて寝る動物はいないようなイメージがあります。
Re: 就寝時の姿勢
御質問頂き有難うございます。
> 寝る時の姿勢、先生はどうされてますか。
いろいろ試して低めのやわらかい枕か枕不使用での仰向け寝であることが多いです。
うつぶせ寝は以前当ブログでも考察致しました。確かに動物本来の寝方であるように思います。
しかし、私がうつぶせ寝しようとすると寝入るまでに身体が痛くなり、つい体勢を変えてしまいます。
うつ伏せ寝専用の枕も買ってみましたが、私の場合はダメでしたね。
2017年1月31日(火)の本ブログ記事
「うつ伏せ寝は良いのか、悪いのか」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-858.html
も御参照下さい。
ありがとうございます
お忙しいところご返信ありがとうございます。
以前の記事、拝見してました。
記憶力、衰えまくりです…。
既に読んでいたという記憶を一応思い出せたのでとりあえず脳は大丈夫でしょうか(苦笑)??
私も近頃は枕がない方が寝やすいように感じてます。
子供って枕しませんよね?
夜使っても朝には頭の下に枕がないような…。
本来必要ないのであれば、使って寝るのはあまり姿勢によくないのかもしれないなぁなんて思ったりします。
Re: ありがとうございます
コメント頂き有難うございます。
> 本来必要ないのであれば、使って寝るのはあまり姿勢によくないのかもしれないなぁなんて思ったりします。
そうかもしれません。
自然に存在した形かどうかが健康法を考える基本だと私は思っています。
2016年1月31日(日)の本ブログ記事
「自然を利用する健康法に信を置く」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-663.html
も御参照下さい。
うつ伏せ枕
ご参考までにお伺いしたいのですが…
先生がご利用になったうつ伏せ用枕は
菅原洋平さんプロデュースのこちらでしょうか?
http://www.minplus.jp/products/detail.php?product_id=19
差し支えないようでしたらご回答宜しくお願いいたします。
Re: うつ伏せ枕
御質問頂き有難うございます。
> 先生がご利用になったうつ伏せ用枕は
> 菅原洋平さんプロデュースのこちらでしょうか?
そうです。残念ながら私には合いませんでしたが。
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