みんながそうでも自分はそうとは限らない

2017/07/24 00:00:01 | 素朴な疑問 | コメント:2件

健康的な睡眠を維持するには、7~8時間寝るべきだという指導があります。

様々な睡眠にまつわる研究をみても、7~8時間が理想の睡眠時間だと結論付けているものが多いようです。

一方で高齢者を中心に世の中には不眠の問題で悩んでいる方がたくさんいます。

7~8時間寝なさいという指導は眠れない人達に、ある種プレッシャーを与えている部分があるのではないかと思うのです。

すなわち、「7~8時間眠ることができない自分は睡眠薬を使ってでも眠らなければ」というプレッシャーです。

しかし、7~8時間眠ることができればとにかく健康になるのかと言われれば、そういうことではありません。 あくまでも、研究が示しているのは様々な集団を調べた結果、健康的である人の割合が多かった睡眠時間は7~8時間だったというだけのことで、

万人が7~8時間眠れば健康になると誤解をしてはなりません。

たとえば、先日紹介した漫画「ONE PIECE」の作者、尾田栄一郎先生は短時間睡眠で大丈夫な方ですし、

芸能界では明石家さんまさんがショートスリーパーだというのは有名ですね。御活躍は皆様も御存知の通りです。


かたや睡眠薬を使って無理矢理睡眠時間を確保する事は健康に寄与しません。睡眠薬の副作用が加わることがその大きな要因と考えられます。

確かに、熟睡できない状態は健康的ではないことは確かですが、だからと言ってどんな手段を使ってでもとにかく眠りさえすればよいという単純な話ではないということには注意しなければなりません。

そうすると、そもそも睡眠薬を使うこと自体がどうなんだという話になってきます。使うことで逆に不健康になるわけですから。

もっと言えば、最初の「7~8時間寝なさい」という指導に問題があります。

なぜ眠れないのか、という問題を置き去りにして、ただ単純に眠れるように工夫するのは言わば対症療法であり、

そのアプローチで行く限り、根本的な解決はいつまでたっても訪れません。

日常生活のストレスで交感神経過緊張が続いていることが原因かもしれないし、

糖質頻回過剰摂取に伴う糖化でオレキシンやセロトニン-メラトニンの神経系に支障をきたしているせいかもしれません。

漢方医学には対症療法を意味する「標治」と、根本療法を意味する「本治」という言葉がありますが、

まさに「標治」と「本治」の両面から治療に当たらなければ真の解決には至らないと私は思います。


もう一つ思うのは、7~8時間寝るべきだとする世の中の風潮は、

1日3食食べるべきという考え方や、炭水化物は50~60%摂るべきだとする考え方の決まり方と同じ構造があるように思います。

なぜそれが妥当だという考え方が一般的となったのか、それは「みんながそうだったから」です。

医学的、生理学的に根拠を持ってそれが正しいという話ではないのです。あくまでも、大多数の人がそういう習慣をとっていたという観察結果を現しているに過ぎません。

7~8時間寝るべきだとする医学研究論文は、個人差がある集団の特徴の波を均一化して結論を導き出しています。

本当は3~4時間寝るのがベストかもしれない人の悩みにそうした研究は答えを与えませんし、むしろ間違った方向へと導きさえしてしまいます。

エビデンスにはそのように個性をつぶし、物事の現象を平らにして表現してしまう側面があります。

エビデンスは上手に利用しないと有害にさえなります。本当は短時間睡眠がベストな人に対して、長時間睡眠を強要する事のストレスを想像してみてください。

あるいは患者本人もそう洗脳されてしまえば、睡眠薬を要望するかもしれません。本当は不要だった薬の副作用を将来に渡り受け続ける患者さんのことを考えてみて下さい。

エビデンスはあくまでも本当に参考程度にとどめ、その患者さん固有の問題をオーダーメイドで考えていくのが真の診療につながると私は思います。


エビデンスを盲信してしまう人は、はっきり言ってエビデンスを使わない方がまだましです。

エビデンスを使うなら、「自分の頭で考える力」は必要不可欠です。


たがしゅう
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コメント

みんながそうだったから

2017/07/24(月) 16:39:13 | URL | Etsuko #-
いつも興味深い記事をありがとうございます。

厚生省と農水省が公表している「食事バランスガイド」が、
 ”みんながそうだったから” 
を、理由に決定したという事実を知った時は驚きました。
日本人らしい決め方だと思いました。

そこで思い出しました。
懐かしいタイタニック号の小話です。
笑えるような、笑えないような・・・

タイタニックが沈没したとき、船員は、
乗客の男性たちに溺れている人を助けるため、
海に飛び込んでもらうため、
声をかけました。

イギリス人に、「紳士になりましょう」

アメリカ人に、「ヒーローになれますよ」
       
ドイツ人に、「これは規則です」

イタリア人に、「美女が少し前に海に飛び込みました」
       
フランス人に、「海に飛び込むな」
        
日本人に、「皆さん、そうしていますよ」
      

Re: みんながそうだったから

2017/07/24(月) 17:16:38 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
Etsuko さん

 コメント頂き有難うございます。

 面白い小話ですね。それぞれの国民性が端的に表現されています。
 裏を返せば、集団の文化によって人の心理は左右されるという事を現していると思います。   

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