治療を受け継いでいくために

2017/07/14 00:00:01 | 自分のこと | コメント:4件

カリスマがいなくなれば消滅するシステムは欠陥があると述べましたが、

先日松本に行ったついでに、夏井先生が以前勤務されていた相澤病院まで足を延ばしてみました。

病床数460床の大きな病院で、様々な治療センターや医療機器が設置され、外観も非常に綺麗でした。

しかし様々なセンターがある中で、かつて夏井先生が設立された「傷の治療センター」は見受けられませんでした。

残念ながら夏井先生というカリスマが不在になったことで、傷の治療センターのシステムは消失してしまったという事なのだと思います。

カリスマなしで一つのシステムを根付かせるという事は実は容易なことではないのです。

しかしこの話に関連して、私にはひとつ誇らしく思っていることがあります。 それは10年前、私がまだ研修医であった頃、

小さな病院へ赴任した私は、当時勉強したばかりの褥瘡のラップ療法を院内で採用してもらうため動きました。

当時の院長にかけ合って了解を得て、細心の注意を払って治療を行うことを約束しました。

そのための具体的な行動として、毎日傷の処置をする度に写真を撮影し記録に残しました。

月に1回の褥瘡対策委員会でパワーポイントを作成し、傷の経過を皆で確認し合いました。

褥瘡のラップ療法DVDを購入し、スタッフに観てもらったり、ラップ療法に使用する穴あきポリエチレン袋付紙おむつ、通称穴ポリを一緒に作ったりもしました。

その努力の甲斐あって、数か月後には褥瘡のラップ療法は院内にすっかりと定着させることができました。

しかし研修期間はあくまで一時的なものです。9か月の研修が終了し、病院を立ち去らなければならなくなった時、

私が立ち去った後も褥瘡のラップ療法を続けてもらえるように、自作の褥瘡治療マニュアル/チャートを作成しました。

はじめて褥瘡のラップ療法に接する医師がみてもその処置を継続してもらえるように、簡潔かつ具体的な対処法を書くことを心がけました。

DVDも病院のために残していきました。しかしそこまでやったとしても、

自分がいなければこの治療は風化してしまうかもしれない不安を残しつつ、私はこの病院を跡にしました。


それから10年、縁あって再びこの病院に戻ってきた私は、

今もなお褥瘡のラップ療法が連綿と受け継がれていたことを知りました。

なにを隠そうそれが今私が勤めている病院なのです。

これは私だけで成し遂げた出来事ではありません。

あくまでもスタッフの心の広さがあって初めて成立する話ですし、そもそも褥瘡のラップ療法の治療論が素晴らしいのです。

それでも私は医師人生においてこの出来事を大変誇らしく思っています。

私の気持ちを受け継いでくれたスタッフに心から感謝する次第です。


たがしゅう
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コメント

No title

2017/07/14(金) 22:39:27 | URL | Etsuko #-
いつも興味深い記事をありがとうございます。

「褥瘡のラップ療法」が、
いつの日か、どの地域でも、どの病院でも、
同じ質で受けられるようになると信じています。
新しい常識を確立するのは大変だと思いますが、
応援しております。

私自身、昨年秋、
右手5本指、右手の甲に、
熱々の天ぷら油がかかり、ジュッと焼いてしまいました。
指が水風船のグローブになりました。

Amazonでハイドロコロイド包帯を買い、
湿潤療法を試みました。
数ヵ月かかりましたが、今では、
どちらの手が水風船グローブだったのか、
全く分かりません。

湿潤療法が人間の治癒能力を引き出すのに、
優れていると、身を持って実感しました。

「褥瘡のラップ療法」が当たり前の時代が来ると信じています。





Re: No title

2017/07/15(土) 10:26:13 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
Etsuko さん

 コメント頂き有難うございます。

 湿潤療法も、本来自分が持っている力は素晴らしいという事を、教えてくれる治療法ですよね。

 私も良いものはいつか必ず伝わると信じています。

病院の規模と体質

2017/07/15(土) 14:19:07 | URL | おばあさんに近いおばさん #-
相澤病院は460病床の大きな病院で、10年前と現在のたがしゅう先生が勤務なさっているのは小さな病院、なんとなく、これだけで、その病院の方向性や働いている方々の雰囲気がわかるように思えます。
大きな病院は、存続維持のためには設備拡大新設に奔走せざるを得ないのがこれまでの日本の医療(・・・現在、病医院の倒産が増えているとか・・・)。ゆえに人心も荒れ、チームワークも無くスタッフの入れ替わりも激しい。
一方、小規模堅実経営の病院は、派手さや目新しさはないけれども、真に患者にとって良い治療を目指すことができる・・・
病院の体質も影響していると思いますが、たがしゅう先生が治療方法の手順をわかりやすく残してくださった誠意が、通じたのだと思います。
久しぶりに心温まるお話をありがとうございました。

Re: 病院の規模と体質

2017/07/15(土) 14:58:28 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
おばあさんに近いおばさん さん

コメント頂き有難うございます。

組織は構造上大きくなればなるほど、皆が同じ方向を向いて一丸となって取り組むことが困難となります。
小規模病院ではそのハードルが下がるとはいえ、常に主張が通るとは限りません。それゆえ褥瘡のラップ療法が認められ受け継がれたことは私にとってとても嬉しく大きな出来事でした。

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