症状の自覚はすぐれた検査

2017/07/10 00:00:01 | ふと思った事 | コメント:0件

うちの病院の職員健診を行なっていた時に感じたことです。

身長、体重、腹囲、視力・聴力、血液・尿検査、心電図、胸部レントゲン写真などの検査を行ない、その結果を各人に説明していくわけですが、

全体的に検査は優秀な人が多い印象を持ちました。

「検査結果の説明は以上ですが、最後に何か健康相談はありますか?なければ終わりますけれど。」

終わり際にそう添えると、これが意外と様々な症状について話してくれる人がまずまずおられます。

検査は全て正常であるにも関わらず、です。
例えば、疲れやすいとか、実はあまりぐっすり眠れていないとか、下痢を繰り返しているとか、そんな内容です。

裏を返せば、検査はこうしたスタッフの身体の不調を捉える事ができていないという事になります。

やはり検査というのは病的な状態を発見するのにどうしても限界があるものなのだと思います。


それに引き換え、自覚症状の病気の検出力たるやどうでしょうか。

血液検査とか心電図とか、そういう検査に引っかかるずっと以前から身体がおかしいということができています。

その検出力は精神が健康であればあるほど鋭敏となります。

結局、科学がどれだけ進歩したところで、症状の自覚というシステムには到底かなわないということを意味しているのではないでしょうか。

この症状の自覚こそが、最も優れた検査だと私は思います。

そしてその検査を行うための方法は、私がそうしたように、患者さんの話を聞くより他にありません。

私が漢方をはじめとして、東洋医学に大いに関心を寄せているのも、

いわゆる現代的な検査など全くなかったずっと昔の時代から、

話を聞くという最も優れた検査を用いて、あらゆる病気と向き合ってきた歴史そのものに由来しているから、という側面があります。

例えば、認知症の領域では早期診断の重要性が声高に叫ばれていますが、

認知症で認められる脳萎縮を生じるずっと前からもの忘れの自覚があるのは常識です。これを軽度認知障害(MCI)と呼んだりします。

最近でこそ、アミロイドPET-CTなる検査が開発され、

もの忘れを自覚する前から、認知症で蓄積するとされるアミロイドという異常タンパク質がないかどうかを調べる検査が注目を集めていますが、

それとて異常タンパク質が溜まれば、正常に神経が機能しない部分が出るということですから、

もの忘れという形ではないにせよ、「何となく体調がおかしい」とか、「集中力が続かない」というレベルの微細な症状自覚はあって然るべきです。

あるいはがんです。がんは東洋医学的には「瘀血(おけつ)」という病態が高じているとみなされることがあります。

瘀血とは、西洋医学的に言えば、「微小循環障害」のことです。

毛細血管レベルの小さい血管の流れが悪い状態のことをそう呼び、診察上は舌の裏にある舌下静脈が怒張したり、

肩や太ももなどに「細絡(さいらく)」という皮膚から見える毛細血管の跡のような所見が見られることがあります。

そのような瘀血が高じれば最終的にがんになるという立場に立てば、

東洋医学はがんの早期発見とか言われるずっと前の時代から、より早期の徴候に注目し、

しかも瘀血を改善させる漢方薬を用いて早期の対処まで行なっていたということになります。

そして瘀血に至っても自覚症状というのが大事です。瘀血があれば何となくだるいとか、身体が冷えやすいとか、生理が重いなどの症状が自覚されることがあります。


常に病気の始まりに自覚症状あり、です。

私がモットーとする「体調が最良のバロメータ」という考えにも通じます。

ただし、折角の優れた病気検出システムも、精神が健康でなければ機能しません。

それが東洋医学の「気」の概念や、ストレスマネジメントとも繋がってくるのです。

私達はもともと素晴らしい力を授けられています。

その事を決して忘れてはならないと思います。


たがしゅう
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する