科学的根拠の乏しいガイドライン

2017/07/06 00:00:01 | よくないと思うこと | コメント:8件

先日、いつものように本屋さんを見て回っていたら、

医学書コーナーに、「日本うつ病学会治療ガイドライン 第2版」なるものを発見しました。

2016年に改訂がなされ、最新の精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)にも準拠している内容のものです。

あまり期待はしていませんが、一応どんなものなのか目を通してみました。

その中で、「軽症うつ病」の項目を読んでみましたが、

治療の基本には精神療法と薬物療法が位置付けられていました。

ところが、軽症うつ病に対して、精神療法、薬物療法ともに有効だとする明確なエビデンスはないのだそうです。

(以下、「日本うつ病学会治療ガイドライン 第2版 第2章 軽症うつ病」より一部引用)

(前略)

基礎的介入に加える治療選択としては、薬物療法もしくは体系化された精神療法(認知療法・認知行動療法など)を単独、もしくは組み合わせて用いることが推奨される。

ただし、軽症うつ病に対する薬物療法の是非、プラセボとの比較で優越性を否定したメタ解析(Kirsch et al, 2008; Rief, 2009; Fourniier et al, 2010)と、 逆に有効性を報告するものとがあり(Gibbons et al,2012; Stewart et al, 2011)は、結論にはいたっていない

(中略)

(薬物療法の)有用性そのものは否定できないが、

少なくとも安易な薬物療法は避けるという姿勢が、 軽症うつ病の治療においては優先されるべきであろう。

さらに認知行動療法に関しては軽症例に対するエビデンスがほとんどないため、選択には十分な検討が必要である。

また、薬物療法と体系化された精神療法その他の治療を組み合わせて行うことが臨床的には望ましいが、

重症患者に対する有効性は認められているものの (Thase et al, 1997; Pampallona et al, 2004; Wiles, 2012)、軽症患者ではエビデンスに乏しく(Cuijpers et al, 2004)、併用する際には個々の患者の特性を鑑みて導入するべきである。

(後略、引用ここまで)



要するに、「明確なエビデンスはないけど、精神療法と薬物療法を基本に治療するのが妥当であろう」と言っているのです。

ここまででもすでに変な感じはしますが、おかしいのはさらにその先です。

「精神療法」「薬物療法」の解説に引き続き、ガイドラインでは「その他の療法」と冠して、

「運動療法」「高照度光療法」「休養」「漢方薬」を紹介する章の中で、次のように書かれています。

(以下、引用)

以下に述べる療法は、いずれも本来軽症に限った治療法ではないが、

単独でのエビデンスが十分ではないため、現時点では薬物療法や精神療法との併用療法と して行うべきである。

この他にもω-3 脂肪酸、葉酸、セントジョーンズワートのような食事療法やサプリメントも治療選択肢となりうるが、日本でのエビデンスは希薄である。

なお、セントジョーンズワートは副作用がある上、SSRI などの抗うつ薬との併用にも注意が必要である。

(引用、ここまで)



つまり、ここで挙げられた治療法はエビデンスがない事を理由にあまり重要視されていないのです。

でもエビデンスがないという意味では、前述の精神療法、薬物療法だって同じ条件なのに、一方は軽く見積もられ、一方は重要視されるとは一体どういうことでしょうか。全然科学的根拠に基づいていません。

とりわけひどいのは食事療法の扱われ方です。

運動療法や光療法などはそれでも多少のスペースを割いて解説がなされていますが、

食事療法について書かれているのは、上記に引用した短い2文のみです。

しかもその2文の中で一部の食事療法における副作用を強調し、まるで食事療法がリスクがあって頼りにならないかをアピールしているかのようです。

いかに日本うつ病学会とやらが食事療法を軽視しているかをうかがい知ることができます。

かたや糖質制限の危険性や長期安全性のなさばかりを強調する日本糖尿病学会も、なかなか問題のある学会ですが、

ある意味、食事療法についてほとんど言及しないという点において、日本糖尿病学会以上にタチが悪いようにさえ思います。


このブログで何度も紹介しましたが、私自身はうつ病を糖質制限で克服した歴のある医師です。

抗うつ薬の頼りなさとそれに比べての糖質制限の圧倒的な改善効果を身を持って経験しています。

副作用を強調するならば、どう考えても薬物療法の方でしょう。

同じようにエビデンスのない治療を行うのなら、副作用のない治療から優先的に行うのが筋だと思います。

何よりエビデンスがなくても、それは十分に調べられていないだけで糖質制限の抗うつ効果の大きさを私は確信しています。

勿論、全員が全員、糖質制限だけでうつ病を克服できる程単純なものではないと思います。ストレスマネジメント不足があれば精神療法やその他の治療法も必要になってくる場面はあるでしょう。

しかし副作用の少なさという点で食事療法はまず真っ先に試みる治療法と位置づけられてしかるべきです。私はそう思います。


こんなスタンスの学会ガイドラインに、はたして患者は本当に身を任せてよいのか。

皆それぞれ真剣に考えてもらいたい問題の一つです。


たがしゅう
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コメント

先生こんにちは

2017/07/06(木) 06:12:05 | URL | みき #a5QElO.U
私も炎症を治したい一心で糖質制限をしている内に
気がついたら、何十年間も闘ってきた過食症の方も
すっかり治っていました!

心療内科に通っていたらきっとまだ治ってはいなかったでしょう

原因不明とされた足の炎症が、あっと言う間に治っただけではなくて
あれほど執着し、散々振り回されてきたスイーツやパンと縁が切れて
とても嬉しいです^^

Re: 先生こんにちは

2017/07/06(木) 06:43:19 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
みき さん

 コメント頂き有難うございます。

 足の炎症、過食の改善、よかったですね。
 原因不明の病気こそ、私は糖質制限を一度はやってみる価値があると思っています。

 2014年3月20日(木)の本ブログ記事
 「原因が分からない人にこそ」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-216.html
 も御参照下さい。

管理人のみ閲覧できます

2017/07/06(木) 08:43:33 | | #
このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: No title

2017/07/06(木) 09:39:23 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
吉野けんさん。さん

 コメント頂き有難うございます。
 準備できたら告知させて頂きます。

2017/07/06(木) 13:26:11 | URL | 幸美さん #-
たがしゅう先生のすごいところは自らうつ病を、糖質制限で、克服されたところなど、自らの、人体実験で、試していらっしゃるところです。でも、人それぞれ、体質が違うから私には合わないとかじゃないとおもいます。スピリチュアルの本では、人間は皆、目に見えない癒しのパワーを、もってうまれてきていると、書いてありした。自分自身は、もちろん他の人を癒すパワーを、もって生まれてきています…と。たがしゅう先生は、自分を、大事に出来る人、そしてそんな自分にあう健康法、治療法は、糖質制限ということに気づかれました。これは、神レベルの気づきだと思います。21世紀は、予防医学の時代と聞きました。糖質制限食は、美容業界でも取り入れられてると聞きました。
時代は、どんどん良くなるばかりですね♪わたしの趣味はなりたい自分に、なること。かわいくなりたい、かっこよくなりたい、賢くなりたい、そのために、努力は、惜しみません(*^^*)

Re: タイトルなし

2017/07/06(木) 13:47:23 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
幸美さん さん

 コメント頂き有難うございます。

 うつ病の時は人体実験という心の余裕はありませんでした。
 しかし結果的には糖質制限の奥深さに気付く最初のきっかけであったと思っています。

学会ガイドライン

2017/07/08(土) 11:06:20 | URL | 精神科医師A #wKydAIho
 学会ガイドラインを改めて読み直してみました。そうすると、「ガイドライン」なるものにどう対処すべきか理解できました

日本うつ病学会治療ガイドライン

http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/img/160731.pdf

P5
 医師にとってのガイドラインとは、例えるならば船長にとっての海図にあたるものである。注意深い観察と豊富な経験があってこそ、臨機応変な舵取りができる。ガイドラインは医師のこのような裁量権を縛るものではないし、逆に、臨床の現場はガイドライン通りに治療すればことが足りるというものでもない。



日本糖尿病学会/糖尿病診療ガイドライン2016

http://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/GL2016-00-01_backcover.pdf

4. 本ガイドラインの使用法

1) 医師の裁量を拘束するものではない
2) すべての患者に適用されるものではなく、患者の状態を正確に把握したうえで、それぞれの診療の現場で参考とされるために策定されたものである
3) 記載内容については責任を負うが、個々の診療行為についての責任を負わない
4) 医療訴訟対策などの資料となるものではない

Re: 学会ガイドライン

2017/07/08(土) 12:56:46 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
精神科医師A 先生

コメント頂き有難うございます。

「ガイドラインは医師の裁量を拘束しない」とは、
言葉通り捉えれば、「ガイドラインはあくまで目安であって、これに拘らずに自由な診療を行えばよい」ということのように受け取ることはできますが、
見方を変えればこれは「逃げ文句」です。事実上、従順な医師達にもたらすガイドラインの影響力の事を考えれば、
「悪いことは言わないからガイドラインの通りにしておきなさい、失敗しても責任はとらないけどね」という責任逃れ発言のようにも聞こえます。
いずれにしても私はガイドラインの言っていること、ひいてはその元になっているエビデンスを盲信しません。

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