バター負荷試験
2017/06/25 00:00:01 |
人体実験 |
コメント:14件
サラダチキン負荷試験に続いて行ったバター負荷試験の結果を公開します。
読者の方々からも「自分は肉を食べても血糖値は上がらない」とか、「断食後だと食べる内容に関わらず食事を再開したことで血糖値が上がるのではないか」など様々な御意見を頂きましたので、
今回は83時間の断食の時点でバター100gを食べて血糖値、ケトン体、インスリン、グルカゴンがどのように変動するかという事について、
食前、30分後、60分後、120分後、180分後、240分後、300分後、360分後の計8回採血を行って観察してみることにしました。
また今回は簡易ケトン体測定器と実測での3ヒドロキシ酪酸の測定値の差についても同時に検証することにいたしました。
まずはその結果をどうぞご覧ください。 使用したのは「雪印 北海道バター 10gに切れてる 箱100g 」です。

実測血糖(mg/dL)
食前 53
30分後 51
60分後 53
120分後 53
180分後 51
240分後 50
300分後 52
360分後 53
インスリン値(μU/mL) グルカゴン値(pg/mL)
食前 4.6 187
30分後 3.0 192
60分後 0.5 196
120分後 2.3 178
180分後 2.5 178
240分後 2.1 196
300分後 1.8 191
360分後 1.3 190
(インスリン基準値:1.7~10.4μU/mL グルカゴン基準値:70~174pg/mL)
簡易ケトン体値(mmol/L) 実測3ヒドロキシ酪酸値(μmol/L)
食前 7.1 7764
30分後 7.0 7745
60分後 6.6 7572
120分後 6.2 7370
180分後 6.6 7453
240分後 7.2 7723
300分後 7.3 8011
360分後 6.9 7437
まず、83時間という断食状態においても、
脂質負荷であれば血糖値は上昇しないという事がわかりました。
長時間断食なので、普通に考えれば食べ物が身体に入ってくれば是が非でも血糖値を上げたい状況です。
しかし、ほぼ純粋脂質であるバターを食べた所で血糖値を上げることはできないという理論通りの結果を確認することができました。
そして何より空腹は最高のスパイスで、なんだっておいしく感じるはずの長時間断食状態においてでさえバターの単独食べは不味かった。
やはり脂質は他の栄養素と合わさって初めて良さが発揮されるということではないかと思います。
興味深いのはインスリンとグルカゴンの動向です。
基礎として長時間断食なのでインスリン低め、グルカゴン高めの状態があります。
私の予想ではインスリンは横ばいであってほしかったのですが、
なんと食後1時間で一時的にインスリンが下がり、グルカゴンがさらに少し上がるという現象が起こりました。
まるでさらに血糖値が下がるのを防ぐためにハンドリングしているかのようにです。
バターを食べることによって血糖値が上がらないどころか、血糖値が下がるかもしれないという危機を身体が感知したという事なのでしょうか。
脂質そのものによる特性というよりも「100gの血糖値に変換されない食塊」が入ってきたことにより導かれた消化管ホルモンの一過性の乱れと考えた方がよいのかもしれません。
この辺り、どのように解釈すればよいか私自身決めかねている所があります。
読者の方で良い解釈がもしあれば、お知恵を拝借できれば幸甚です。
あとケトン体の簡易測定器と実測での測定誤差は、私の場合は500~1100μmol/L程度と結構ありましたが、
変動に際しての誤差は比較的少ないということがわかりました。
数値そのものの誤差も大きくとらえれば許容範囲かもしれませんね。
そして注目すべきは、脂質を摂取することでケトン体は上昇しそうなものですが、
逆にバターを食べることによって、2時間後にケトン体の数値が一過性に低下したということです。
この結果は、脂質の材料を大量にとればよいというものではなく、
脂質を自分の身体で合成し利用することができる代謝が整っているかが大事だという私の考えを支持するものです。
今回もやってみて初めてわかる興味深い事実がありました。
次回はサラダチキン負荷試験の追試を行ってみようと思っています。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
100gといえば200gの半分ですね。
大変な量です。お疲れ様でした。
血糖値も何回もはかって頂いて・・・・
じゃあやっぱりサラダチキンなら血糖値上がりますよね?
結局、タンパク質なら血糖値を上げるってことですよね。
私は糖尿病ではないので、断食してない時はタンパク質を食べても血糖値は殆ど上がりませんけどね。断食の後は血糖値が上がります。
結局、江部先生とかの本に書いてある通りですかね?
また楽しみにしてます。
呼吸商
いつもブログの発信ありがとうございます。
先生の負荷試験を拝見して思い出した事があるので質問させて下さい。
脳がブドウ糖を利用している時の呼吸商の値は1で、
飢餓や絶食時は0.7程ということですが、
たがしゅう先生のような食事(食事の内容・摂食間隔)をされている場合
呼吸商の値はどのくらいになるのでしょうか。
時折実践される断食の時と日頃の値は変わらず同じような数値になりますか?
どうぞよろしくお願いします。
No title
大変参考になりました。
中性脂肪値の変化は測定されていますか?
血中キロミクロンの推移に興味があります。
またバター摂取後に一過性の水様便はありましたか?
お教えいただければ幸いです。
引き続き、御ブログで勉強させていただいております。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
> じゃあやっぱりサラダチキンなら血糖値上がりますよね?
> 結局、タンパク質なら血糖値を上げるってことですよね。
江部先生のブログにも記載がありますが、
糖尿病でなくともタンパク質が上昇するパターンがありうるようです。
それは自己インスリンよりも自己グルカゴンの分泌が多い場合のようなので、サラダチキン負荷試験の追試ではその辺りも確認しようと思っています。
Re: 呼吸商
御質問頂き有難うございます。
> たがしゅう先生のような食事(食事の内容・摂食間隔)をされている場合
> 呼吸商の値はどのくらいになるのでしょうか。
> 時折実践される断食の時と日頃の値は変わらず同じような数値になりますか?
呼吸商とは消費される酸素と排出された二酸化炭素の量の比によってその時生体内で主に利用されている栄養素を推定するものですね。一般的に糖質では1.0、タンパク質では0.8、脂質では0.7と言われています。
実測したわけではないですが、私はタンパク質・脂質を主体とした食生活で、絶食中は脂質代謝メインとなるので、おそらく0.7〜0.8程度で推移していると推測されます。
Re: No title
御質問頂き有難うございます。
> 中性脂肪値の変化は測定されていますか?
実は食前、120分後、240分後、360分後で測定しています。
流石に8回小刻みに測定することに抵抗があったもので。
ただ、今出先で結果を確認できないので、確認出来次第公開させて頂きます。
> またバター摂取後に一過性の水様便はありましたか?
それは今回の実験に関して言えば、特にございませんでした。
管理人のみ閲覧できます
チキン
糖質(ホボ)ゼロの肉食で、血糖値が上がらないのは、やはりインスリンとグルカゴンのバランスでトントンになってたってことでしょうね。
江部先生の本に書いてある通りです。
断食という特殊な状況を通して、血糖値を変化させる他の要素が見つかればもっと面白いのですが・・・。
チキンサラダまた宜しくお願いします。
Re: No title
> 結局「ブドウ糖代謝の場合にはミトコンドリアでピルビン酸からアセチルCoAになる時に二酸化炭素が1つ産生されるが、
> 脂肪酸のβ酸化の場合はアセチルCoAになる時には二酸化炭素の排出がない。」という違いからきているだけですので、
> 脂肪酸燃焼のほうがエネルギー効率が良いということを表しているに過ぎないと思います。
御指摘頂き有難うございます。
自分の呼吸商がいくつくらいという表現はしないのですね。
Re: チキン
コメント頂き有難うございます。
> 糖質(ホボ)ゼロの肉食で、血糖値が上がらないのは、やはりインスリンとグルカゴンのバランスでトントンになってたってことでしょうね。
> 江部先生の本に書いてある通りです。
おそらく多くの健康人はそのパターンなのでしょう。
私の場合は時々断食をしていて基本的にグルカゴン多めな状況にあることもタンパク質で血糖上昇する要因を作っているのかもしれません。純粋なチキンで再検証してみたいと思います。
バター負荷試験中の中性脂肪推移
バター負荷試験中の中性脂肪値の変化です。
中性脂肪(mg/dL)
前 82
120分後 69
240分後 77
360分後 95
何かの参考になれば幸いです。
バターを食べています
自分は肥満も糖尿病もありませんが、おそらく隠れ肥満(内臓脂肪)があって、それを減らせば、数年来の高血圧も薬なしで改善するんじゃないか、と。
それと、去年ストレスから甘い物への過食に走り、糖質中毒的な怖さを身をもって感じたことも背景にあります。
ダイエットが目的ではありませんが、身長171センチで四月の67キロ台が、現在61キロ台まで落ちています。体脂肪率は一月前20%、いま17.5%です。血圧もぼちぼち前より低い値が出るようになりました。
今回の記事は、僕にはたいへん印象的でした。というのは、糖質をやめるといっても、(長年の動物愛護的偏見から)哺乳類の肉は食えないのです。魚もあまり好きではなく、鶏肉はせっせと食べていますが、LCHF食を達成するためにも、バターをそのままで食べることにしました。
とはいっても、食べるのは減塩バターです。(普通のバターは塩分が多すぎて受け付けません。)紅茶やブラックコーヒーをお供に、ゆるゆるとなめていると、それなりに美味しく感じます。
血糖値スパイクのみならず、インスリンスパイクも生じないバターは、天の恵みのような、すばらしい食べ物だと思いました。
今後も、先生のよくおっしゃる「自分の頭で考える」姿勢を持ち、「卵とバターが自分にとっての主食」と思って実践していくつもりです。
補足訂正
「減塩バター」と書きましたが、食べているのは「食塩不使用」バターです。各社から出ています。
含有ナトリウムは微量で、塩気はまったくありません。
Re: バターを食べています
コメント頂き有難うございます。
バター単独食べが大丈夫な方、意外といらっしゃるようですね。
嗜好・慣れの問題も関連してくるので、「不味い=身体が必要としていない」という解釈は、早合点にならないよう注意が必要だと感じました。
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