具体性と汎用性

2017/02/18 00:00:01 | ふと思った事 | コメント:2件

具体的の対義語は抽象的だと学校で教わりました。

抽象的な話にはぼんやりとしていてわかりにくいというイメージがあります。

それゆえ、わかりやすさが求められるプレゼンや執筆の世界では具体的に書くということに一つの価値が見いだされる傾向がありますが、

一方で「具体性がある」と対称的な言葉として「汎用性がある」というのもあると思います。

「汎用性」とは、一つのことを様々な用途や場面に応用する事ができるということです。

例えば先日紹介したように、大雪で家から出られなくなっても、家にいてもできる別の事を考える、というのは具体性の高い表現ですが、

変えられない困難に直面した時にそれを受け流し、視点を変えて全く別のアプローチを試みる、というのは汎用性の高い表現です。

ここで強調したいのは、「具体性が高くても、汎用性が高くても、わかりやすさは必ずしも失われない」ということです。 かつての剣豪、宮本武蔵が著した「五輪書(ごりんのしょ)」は剣術指南書でありながら、

その高い汎用性から、ビジネス書としても活用され、有名スポーツ選手や経営者の座右の書となったり、翻訳され海外でも広く読まれているという話は以前にも紹介しました。

それだけ広く伝わるためには「わかりやすい」という要件は欠かせないはずです。広く伝わっているという事は、「汎用性の高い表現はわかりやすくなりえる」という事だと思います。


具体性と汎用性、それぞれに価値があると私は思います。

例えば、先日紹介した「うつ病を糖質制限で克服した」という漫画は、当事者にとってみればものすごく心に突き刺さるメッセージとなります。

現在うつで悩み、治療がうまく行っていないという方にとってはこれ以上ない福音となるのではないでしょうか。

しかし、うつの実体験が少ない人にとってみれば、「へぇ、そういう事もあるんだ」くらいに受け止められ、あまり心に響かない可能性もあります。

従って、具体性の高いメッセージはわかりやすいですが、伝わるかどうか人を選ぶところがあります。

一方で、「依存性がある物質を除き、本来の身体の代謝を正しく働かせるという治療アプローチは、万人に健康効果をもたらす」というメッセージにすれば、汎用性が高くなります。

こういう形にすれば、糖質制限のみならず、禁煙、断酒、睡眠薬からの離脱、マインドフルネスなど様々な治療法がそれに該当し、より多くの人に理解してもらえる可能性が高くなります。

その反面、具体性の高いメッセージほどの心に突き刺さる力はないかもしれません。

どちらもわかりやすくなる潜在能力は秘めていますが、その両者を時と場合に合わせて使い分けることが大事であるように思うのです。


医療で言えば、私が興味を持つ漢方は極めて具体性の高いアプローチです。

漢方薬は誰にでも効くというわけではありません。患者さんを選んで使う必要があります。

漢方の古典には、ある漢方薬を使うべき最適のタイミングがこうである、という事が非常に細かく記載されています。

勿論、それがすべて合致するに越した事はありませんが、患者は千差万別です。最適なタイミングを待っていたら漢方薬はいつまで経っても使えないし、上達もしません。

その代わり、タイミングが合った時には他の治療法では到底治らなかった病態を改善に導くことができます。

そうした治療効果が古典に書かれている方法だけでもたらされるとは限らず、古典とは異なるケースで劇的な効果をもたらすということは多々経験します。

漢方関連の学会ではそれぞれの漢方医が経験したそうした貴重な治療経験が今も集積されて続けていますが、

各個が具体性の高い内容であり、それらの集合体は混沌としていて、なかなか秩序を持った集合知としてまとまった形で理解するのが難しいという側面もあります。

かたや糖質制限は汎用性の高い治療アプローチと思います。

個々の患者に様々な細かい病態の違いがあったとしても、「有害なものを抜く」という意味ではアプローチは共通しているので、

どんな病態に対しても、まずもって治療に取り組むことができるというで非常に汎用性が高いのではないでしょうか。

だから私は治療方針は糖質制限を基本におき、それだけでは解決できない問題と遭遇した場合に、適宜漢方薬を優先的に用いるアプローチとしています。

勿論、西洋薬を用いる場面もありますが、漢方薬で解決できるならそちらの方を優先的に用います。なぜならば終薬が目指せるからです。

いつまででも病院に通い続ける事を前提とした医療は、医療本来の姿ではないと私は考えています。

たとえ完全治癒が難しいとされる病態であっても、あくまで目標は病院に通わなくて済む治癒・寛解状態を目指すというのが医療のあるべき姿だと私は思います。

具体性と汎用性、それぞれの違いを意識して、

どんな患者にも希望を与える事ができる新しい医療を構築していきたいです。


たがしゅう
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コメント

汎用性

2017/02/18(土) 11:46:17 | URL | あきにゃん #-
たがしゅうさん、こんにちは。

汎用性。いい言葉ですね。
一つの事を知っているだけで多くの場面で役立つわけですから、私は好んで汎用的表現を使ってしまう傾向があり、時々、「具体的に言って下さい」と言われることがあります(笑)。

具体例を出して説明するとわかってもらえるのですが、恐らくわかってもらえたのはそのケースについてだけだと思うので、なかなか悩ましいです。

真にその情報(或いは考え方)を必要としている人にそれを伝えることは、難しいことなのだと再確認しています。

Re: 汎用性

2017/02/18(土) 12:28:16 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
あきにゃん さん

 コメント頂き有難うございます。

 言い換えればミクロとマクロの視点の違いだとも思います。

 ミクロの視点でもマクロの視点でも、本質は常にシンプルかつわかりやすいものなのではないかと私は思うのです。

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