乳幼児死亡率が平均寿命に及ぼす影響

2016/10/30 00:00:01 | 読者の方からの御投稿 | コメント:10件

ブログ読者のたにぐちさんとライトさんより、

昔の人は生活習慣病が発見されず平均寿命が短かったことを指摘した記事について、それぞれコメントを頂きました。

【16/10/28 たにぐち
タイトルなし
今昔の寿命の比較は、私のような素人が考えても、
抗生物質の普及など医療技術の進歩という側面があって、
なかなか単純に比較しづらいところはあると思います。

【16/10/28 ライト
タイトルなし
昔は乳幼児での死亡率が高く、平均寿命を下げてたのでは?


平均寿命というのは、その集団の様々な生活要素の結果として現れるので、

各時代で単純に比較しきれるものではないという点は御指摘の通りだと思います。

なかでも現代と昔とで大きく違うのは、ライトさん御指摘の「乳幼児死亡率」です。本日はこの問題について取り上げてみたいと思います。 よく乳幼児死亡率が下がったのは医療技術が発達したからだと言います。その事を私は否定しませんし、そういう要素は確かにあると思います。

しかしそもそも乳幼児が死亡する原因は何なのでしょうか。

乳児とは生後0日から離乳が終わるであろう満1歳未満の時期、幼児とは満1歳から小学校就学までの時期のこどものことで、併せて「乳幼児」です。

厚生労働省の統計によると、0歳児と1~4歳児の死因第5位までは次のようになっています。

(0歳児)
第1位:先天奇形,変形及び染色体異常(35.1%)
第2位:周産期に特異的な呼吸障害等(14.1%)
第3位:乳幼児突然死症候群(5.7%)
第4位:不慮の事故(4.9%)
第5位:胎児及び新生児の出血性障害等(3.9%)

(1~4歳児)
第1位:先天奇形,変形及び染色体異常(17.7%)
第2位:不慮の事故(16.4%)
第3位:悪性新生物(9.6%)
第4位:心疾患(7.2%)
第5位:肺炎(4.8%)


乳児と幼児ともに死因の第1位は生まれつきの遺伝子異常で亡くなるので、いくら医療が発達していても残念ながら助けられないケースです。

また不慮の事故につきましても医療の発達は救命に無力でしょう。

0歳児の第2位の「周産期に特異的な呼吸障害等」は、私は専門ではないですが、昔医学生時代に習った2大疾患は「呼吸窮迫症候群(RDS:Respiratory Distress Syndrome)」と「胎便吸引症候群(MAS:Meconium Aspiration Syndrome)」です。

これらは確かに医療の発達によって救われうる命かもしれません。吸引や酸素投与、人工呼吸器などの利用によって昔は救われなかったRDSやMASのこどもを現代医療は幾度となく救ってきたことでしょう。

しかし一方でそもそもRDSやMASをどうして起こすのかという事を考えてみると糖質摂取との関連がありそうに思えてしまいます。ですが、この問題は本題と少しずれるのでまた別の機会に語ろうと思います。

0歳児の第3位、「乳幼児突然死症候群(SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)」、これは現代医療でも救えません。

なぜなら乳幼児が突然原因不明で亡くなって初めて「SIDS」という診断がつくからです。いわば結果論の診断名だからです。

SIDSにまつわっては一般的にうつ伏せ寝がその原因ではないかという事が言われていますが、糖質の関与は考えられないでしょうか。ここにもいずれメスを入れたいと思います。

あとの脳出血とか、悪性新生物、肺炎、心不全なども現代医療で助ける事ができそうです。しかしその割合は決して乳幼児死因全体の多数派ではなく、医療が発達していても助けられない乳幼児死亡は結構あるという事は理解しておく必要があると思います。


次に乳幼児死亡率の増加が全体の平均寿命に及ぼす影響について考えてみます。

総務省統計局の統計調査では、平成28年10月現在の0~4歳児の人口は男女合わせて514万人、日本全体の総人口が1億2693万人です。

つまり乳幼児は全人口のだいたい5%弱を占めているという事になります。

計算しやすいように今仮に日本の平均寿命を80歳として、5%の乳幼児が全員死亡したと仮定して平均寿命を算出するとどうなるでしょうか。

80×(120000000×0.95)/120000000=76歳

乳幼児全員が救えなかったという非現実的な設定でも平均寿命は4歳しか下がらないのです。

ということは江戸時代~昭和初期の平均寿命が40~50歳というのを、乳幼児死亡率の増加だけで説明しようとするのには無理があると考えられます。

やはりたいていの日本人が40~50歳程度でなくなったと考えるのが妥当ではないかと思います。


もう一つそう考える根拠を提示します。

江戸時代を彩った徳川15代将軍の平均寿命です。

Wikipediaによれば徳川15代将軍の寿命はそれぞれ次のように記載されています。

1徳川家康 享年75歳
2徳川秀忠 享年54歳
3徳川家光 享年48歳
4徳川家綱 享年40歳
5徳川綱吉 享年64歳
6徳川家宣 享年51歳
7徳川家継 享年8歳
8徳川吉宗 享年68歳
9徳川家重 享年51歳
10徳川家治 享年50歳
11徳川家斉 享年69歳
12徳川家慶 享年61歳
13徳川家定 享年35歳
14徳川家茂 享年21歳
15徳川慶喜 享年77歳


この徳川15代将軍の平均寿命を計算すると51.4歳です。

栄華を極めた徳川将軍でさえこの平均寿命であったわけですから、

庶民の平均寿命が40代というのはあながち的外れでもない数値なのではないかと思います。


というわけで医療の発達による乳幼児死亡率低下の寄与率は低く、

乳幼児の死亡率増加の件を考慮しても、平均寿命の数値はまずまず実情を反映している値ではないかと私が考える次第です。


たがしゅう
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コメント

No title

2016/10/30(日) 08:20:19 | URL | ココア #-
徳川15代将軍の死亡原因はなんだったのでしょうか?戦いや怪我が原因の死があったから平均寿命が短くなったとは考えられませんか?

Re: No title

2016/10/30(日) 08:35:25 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
ココア さん

 御質問頂き有難うございます。

> 徳川15代将軍の死亡原因はなんだったのでしょうか?

 徳川将軍の死因には諸説あるようですが、いずれも何らかの病が原因と考えられているようです。
 将軍の立場ですし、直接戦地に赴くことはなかったでしょうから、外傷や事故死は考えにくいのではないかと思います。

将軍の死因

2016/10/30(日) 16:21:21 | URL | ひっ跳べ #-
たがしゅう先生

はじめてコメントさせていただきます。
先日、篠田達明著「徳川将軍家十五代のカルテ」という本を読みました。
初代家康から十五代慶喜までの死因が以下のように記載されていました。
「胃がん・胃がん・脳卒中・不明・はしか・インフルエンザ・急性肺炎・脳卒中・尿路障害・脚気衝心・急性腹症・暑気あたり・脚気衝心・脚気衝心・急性肺炎」
著者は、整形外科医にして作家で、文献調査による各将軍の最後の様子を基に最新医学で診断したそうです。

将軍家のもっとも大事な仕事は、軍事や政治ではなくて子作りだったそうですから、その生活や推して知るべしですよね。
大事に大事にされて、これです。

横から失礼しました。

Re: 将軍の死因

2016/10/30(日) 17:03:44 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
ひっ跳べ さん

 コメント頂き有難うございます。

> 初代家康から十五代慶喜までの死因が以下のように記載されていました。
> 「胃がん・胃がん・脳卒中・不明・はしか・インフルエンザ・急性肺炎・脳卒中・尿路障害・脚気衝心・急性腹症・暑気あたり・脚気衝心・脚気衝心・急性肺炎」
> 著者は、整形外科医にして作家で、文献調査による各将軍の最後の様子を基に最新医学で診断したそうです。


 大変参考になる資料です。どうも有難うございます。

 割と脚気衝心が多かったり、現代なら治せそうな感染症で亡くなっているケースも多いという所も注目ですね。

江戸患いのこと

2016/10/30(日) 18:02:28 | URL | やまたつ #UoJDqtOY
脚気の原因は白米中心の食生活であることを当時既に特定されていて、脚気のことを江戸患い、つまり参勤交代で江戸屋敷に勤めるようになり、白米中心の食生活になると、発病する病気であるとという認識があったとのこと。その対策としてビタミンB1補給のため蕎麦が広まったというのが通説ですね。
近代になって、日本陸軍の兵士に脚気が大流行した原因が白米にあることをなかなか認めないため、多くの兵士が命を落としてます。
これらは、武士や兵士が白米を食べて運動でエネルギーを消費していたので、糖質の摂取によるインシュリンの弊害でなく、ビタミンB1の欠乏が白米中心の食生活によって発生した事象。
現代は、運動量が激減して、ビタミン類の補給が行われていることで、白米摂取もしくは糖質摂取の別の弊害が出てきているといことでしょうか。
少なくとも、過去に白米が健康に良い食べ物ではないことを経験から学んでいるのに、日本人の主食は米であると主張するのは宗教の教義みたいなものですね。

Re: 江戸患いのこと

2016/10/30(日) 20:05:54 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
やまたつ さん

 コメント頂き有難うございます。

 白米の健康被害が明らかであってもそれを否定しその根拠を文化や精神論に求めるしかなくなる思考パターンは、糖質の強固な中毒性をそのまま現していますね。将軍家でさえ長寿にならなかったというのは皮肉ですが、重要な事実を教えてくれているように私には思えます。

承認待ちコメント

2017/08/04(金) 13:35:54 | | #
このコメントは管理者の承認待ちです

Re: 乳幼児死亡率と平均寿命について

2017/08/04(金) 13:50:29 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
ほろろ さん

 御指摘頂き有難うございます。

 確かに江戸時代は現代よりも多産多死であった可能性が高いですね。
 当時、乳幼児が全人口のどのくらいを占めたかは知る由もありませんが、仮に10%だったとしても平均寿命を下げる寄与率はマイナス8歳です。平均寿命80歳と平均寿命40~50歳とではまだまだ大きな差があります。
 従って、乳幼児死亡率だけで平均寿命が低い事を説明するのは無理がある、という本記事の趣旨に変更はありません。

通りすがりですが

2017/12/17(日) 23:24:05 | URL | 匿名希望 #-
例えば100年前の死因トップ3は肺炎•胃腸炎•結核でした
現代とは随分違いますね
乳幼児の死因にも同じことが言えるのではないでしょうか
現代でも子供がかかる麻疹は昔は命定めと呼ばれるほど恐ろしい病気だったようですし現代の厚生省の統計や出生数をあてはめるのは無理があると思います
また昔の人は婚姻率は高く多産であり婚姻年齢が低かったことも事実です
それでいて出産時の女性の死亡率はたった100年前でも今の10倍です
また現代のように命に別状なく堕胎するような医療技術もなかったでしょうから生む決断をした人は多かったと思います(ちなみに現代日本の堕胎数はびっくりするほど多いです)
あと昔の人が糖質を多く取ることは現代と違う意味でリスクがありました それは「虫歯」です
ものが食べられなくなるだけでなく虫歯菌自体が昔の人にとっては脅威でした

Re: 通りすがりですが

2017/12/18(月) 07:19:12 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
匿名希望 さん

 コメント頂き有難うございます。

 私がこの記事で申し上げたかったのは、「乳幼児死亡率の増加が全体の平均寿命へもたらすインパクトは意外と小さい」ということです。

 江戸時代の全人口に対する乳幼児の割合がわからないので、便宜上現代の5%を当てはめましたが、仮にその乳幼児人口の全員が生き延びられなかったとしても平均寿命はそんなに下げないということです。実際には江戸時代とは言え、全員死亡ではなく何とか成人まで達した人もそれなりにいるわけですから、平均寿命を下げる率はもっと下がることになります。
 また前コメントでも取り上げたように仮に江戸時代の乳幼児の割合が10%だと仮定しても、平均寿命を下げる力は知れています。

 つまり平均寿命を下げている要因は乳幼児死亡の増加だけがメインではなく、成人後40代前後での死亡の要素も結構あったのではないかということです。その原因には御指摘のように虫歯や種々の感染症を制御できなかったことがあるのではないかと思います。

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