同じ量を食べても太り方は変わる
2016/01/09 14:00:01 |
ふと思った事 |
コメント:5件
前回は「汎動物学(Zoobiquity)」について紹介した本から、
「腸の伸び縮みがエネルギーの取り込み具合に影響する」という知見を紹介しました。
この事を突き詰めて考えると、興味深い事実が見えてきます。
よく一般的なダイエット理論において、
「1日2食にすると身体が飢餓を感じて食欲が増してドカ食いしてしまうので、
かえって余計に太りやすくなってしまう、だからやせたいと思うならまずは1日3食しっかり食べるべきである。」
というような論調を耳にする事があります。
確かに1日2食どころか、最近はほぼ1食になる事が多い私の実体験による感覚からみても、
1食食べる時の食欲は旺盛です。量も一般的な定食などと比べて多いかもしれません。
ただ1食で3回分の食事量を食しているかと言えば、流石にそこまではたべていないと思います。 ということは、同じ量を食べたとしても栄養の吸収効率が異なるという現象が確かに存在するという事になります。
力士が太るためにわざと1日2食にしていると聞いた事があります。これには大量の糖質とそれに伴うインスリンの過量分布も関与しているのでしょうが、
私の場合はしっかりと糖質制限もしているので、糖質を取り除いたとしてもその現象が認められるというのは注目すべきところだと思います。
なぜ注目すべきかといいますと、医師をはじめとする医療従事者は、
減量指導してもやせない太った患者を見たときに、患者がどれだけ量をたくさん食べていないとアピールしたとしても、
「そうは言ってもやっぱり無意識に食べてしまっているのだろう」と決めつけてしまっている節があると思います。
しかしもしも同じカロリー、もっと言えば同じ糖質量であったとしても、吸収効率が異なる条件があるのであれば、
やみくもに患者が食べ過ぎに気づいてないだけだと通り一遍のカロリー制限、糖質制限指導を繰り返すのではなく、何か別の方法を考えるべきなのではないでしょうか。
そしてそのメカニズムに「腸の伸び縮み」が関わっているのではないかと私は考えるわけです。
1日1食にしていて思うのは、「よくお腹がキュルキュルと鳴る」という事です。
この状態では、モチリンをはじめとした複雑なメカニズムで腸蠕動が亢進している状態になります。
その状態で食べ物が入れば、しっかりと腸管が伸びて表面積が大きくなっているので、腸内細菌と接触する機会が増えます。
腸内細菌自体にも太りやすさに関与しますが、接触機会の寡多もエネルギーの吸収具合に関与します。
それを踏まえてさらに患者指導で減量を目指すならば、
「おそらく食べ過ぎているのだろう」と最初から決めつけるのではなく、
食事量を減らそうとしている努力をまずは理解・尊重し、その上でどうすべきかを考えるべきだと思うのです。
しかしながら、そもそも腸が動いて栄養の吸収が良くなる事はそんなに悪い事でしょうか。
先日の汎動物学の紹介の中で、鳥が長距離飛行の前に腸を伸ばしすばやくエネルギーを取り込んで飛行動作継続に耐えうるエネルギーを保持する生態の話がありました。
また自然界には寒い冬という苦境を乗り越えるために冬眠というシステムも存在します。
すばやくエネルギーを取り込むためのシステムは動物がより効率的に生きるために生み出したもので、
ヒトは現代生活の中でそのシステムを使わずにエネルギーを取り込める飽食社会を確立してしまったがために、
本来持っていた腸管をダイナミックに動かすという機能を錆びれさせてしまっていたのではないでしょうか。
それが1日1食にする事で復活してきた、その結果のお腹キュルキュルではないかと思うわけです。
だとすれば糖質制限でかつ1日1食を実践している人でやせ切らない壁を越えるためには、
普通の量より食事量をさらに減らすか、もしくはケトン食に近づけていくかという事になるのかもしれませんが、いずれも容易な事ではないですね。
この辺りの話は、さらに肥満の副作用を持つ薬と絡めると面白いです。
それについては次の記事で書こうと思います。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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太りやすさ
腸のダイナミックな伸び縮みと栄養素の吸収の関係は、言われてみれば、なるほどと納得しました。その他に先生も触れられている腸内細菌の関与が興味深いです。酪酸菌などが生成する短鎖脂肪酸が肥満を防ぐと言われていると思います。腸管の伸び縮みは、食事量に応じた生体反応と思うのですが、腸内細菌の方は生体自身によるコントロールはできないように思います。
糖質制限が腸内細菌、腸内フローラにどのように影響するのか興味があります。糖質制限の場合、脂肪の摂取量が多くなると思いますが、バターなどは短鎖脂肪酸が多いと聞いたことがあり、そう考えると腸内フローラにもいいことが多いのでしょうか?
いろいろと面白いことが多いです。よろしくお願いいたします。
Re: 太りやすさ
コメント頂き有難うございます。
> 糖質制限が腸内細菌、腸内フローラにどのように影響するのか興味があります。
詳しい事は私もよくわかりませんが、
そういう研究データも今後普及が進めばいろいろ出てくるかもしれませんね。
既知の医学知識の中では、腸内フローラの優勢菌や劣勢菌、それ以外の日和見菌の数を変える事はできても、もともと生着した菌の種類自体を変える事はかなり難しい事のようです。それゆえ腸内フローラは一種体質のように理解されている側面もあると思います。
2015年2月12日(木)の本ブログ記事
「腸内細菌を入れ替えるのは至難の技」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-573.html
も御参照下さい。
No title
現在「糖質制限をして、かつ昼食抜きとしています。」「糖質を摂って3食摂っていた」2年前に比べて確実の太りやすい体質になりました。
特にタンパク質過剰で体重増加が著しいのです。ですから時々ケトン食に近づけ、私だけ別のモノを食べる事もあります。しかし継続が難しく元の糖質制限食に戻ると緩やかな体重増加が再び見られるのです。
①太りやすい体質になった事を意識して、タンパク質過剰を避ける。②「1日2食の糖質制限」は継続する。この考えを今後も持ち続けるつもりです。
糖質制限で本当に健康になりましたから。標準体重に近づく事も受け入れなければならないと考えています
くんだみえ
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
人の価値観はそれぞれです。「標準体重である事が善」とは限りませんから、
糖質制限の理論は理論として、実践では自分の体調と相談しながら「自分だけのやり方」というのをいろいろと模索していくのが良いと思います。
No title
改めて「糖質制限」というスタイルを通して自身の健康(付随する精神面も)を穏やかに考えて見ます。
常に、たがしゅう先生のブログに励まされています
くんだみえ
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