過活動にはまず火消し作業
2014/12/12 00:01:00 |
お勉強 |
コメント:2件
先日、脳梗塞の勉強会がありました。
こういう勉強会はだいたい製薬会社が主催なので、
講演の内容もその製薬会社の商品絡みの事が多いので、
要するに「ウチの製品こんなに良いので使ってくださいね」という類の内容が多いです。
ただ講演内容のすべてがそういうものだというわけではないので、
私は製薬会社の趣旨とは違う所で目を光らせて情報を得ようと心がけています。
今回私の目を引いたのは、「脳梗塞に陥った血管がそれ以上詰まらないようにするために炎症性サイトカインを抑える治療法が良いのではないか」という話でした。 脳梗塞というのは言ってみれば巨大な酸化ストレス源です。
突如として生じたその巨大な酸化ストレスに対して、人体は必死で消火活動をしようと炎症性サイトカインなるものを一生懸命産生します。
具体的にはインターロイキン6とかTNF-α(Tumor Necrosis Factor-α:腫瘍壊死因子α)と呼ばれる物質です。
実は脳梗塞に陥りそうな場所があるとき、ヒトの体は「側副血行路」という周りから血流をサポートする新生血管を作ろうとするのですが、
酸化ストレスがあまりにも巨大である場合、高TNF-α状態が高じて逆に側副血行路の形成を阻害することがあるそうです。
そしてTNF-αを阻害する薬を使うと側副血行路の形成を回復させるという動物実験結果があるようなのです。
TNF-αを阻害する薬は、実は関節リウマチの治療薬としてすでに世に出ています(例:インフリキシマブ、エタネルセプト)。そして関節リウマチは自己免疫による炎症性疾患です。
なのでこれを脳梗塞にも使ったらいいのではないか、という趣旨の内容でした。
私にはTNF-αを阻害する薬は、ステロイドパルス療法と同じ匂いがします。
つまり急性期の過活動状態にとっては有益であるかもしれないということです。
西洋医学も使いようで、過剰に高まった免疫や炎症性サイトカインが産生されすぎた状態など、いわば大火事の状態には火消し作業に当たるステロイドパルス療法は有益です。
「ゆっくり糖質制限」などと言っている場合ではない時もあると思います。
それは先日の「腸内細菌過活動→色素性痒疹」の仮説の話にも通じるものがあります。
いくらケトーシスが良いと言っても、それによって弊害が出ている状況があるのであれば、一旦それを解除すべきです。
炎症も酸化ストレスも、腸内細菌の活動も、ケトーシスも、それぞれ自体は生命の維持にとっていずれもなくてはならない現象ですが、
こうした現象が何らかの原因によって過活動になってしまった場合、それは西洋医学的な手法を駆使してでも一旦火消し作業に専念するのが妥当だと思うわけです。
だから抗TNF-α療法を脳梗塞急性期に用いるというアイデア自体は悪くないと私は思います。
ただ、もしもそこから発想が脳梗塞の予防にも使おうなどと発展しようものなら、それは避けるべきだと思いますね。
それはあたかもステロイドを継続内服させる事による有害性(副作用)を追いかけるような話になるからです。
適度な酸化ストレスを受け、適度に炎症が起こり、それを消化管や腸内細菌が頑張って適度なケトーシスを生み出し収束させる、そしてその活動を繰り返す・・・
このサイクルをいかにきれいに維持するかが大事なのではないかと思います。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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急性期治療と予防の違い
急性期治療というのはいわゆる救急であり、消防車で大がかりに消火するという活動ですね。それをしないと全焼してしまう(人だと死んでしまう)からする
それをそのまま予防治療に導入いうのは理解しがたい話ではありますね。
急性期治療(内科的)とは具体的にいうと重症感染症を抗生物質で叩く、脳梗塞だと抗血栓剤を投与してフリーラジカル消去剤で脳保護するというような治療ですね。TNF-αについては糖尿病神経障害でも話題になっていましたね。たしかに免疫系に作用する薬剤というのは諸刃の剣です。ステロイドも急性期短期限定だと高い効果を発揮しますが、長期に継続すると前述のせん妄・精神症状や骨粗鬆症、免疫不全などの問題が出ます。フェニトインもかつてはてんかん重積には必ず使用する薬剤でしたが、長期服用にするとかなり(骨粗鬆症や動脈硬化など)毒性が強い事がわかってきて、てんかんの専門家も使用を控えるように注意喚起している現状のようです。仰るように急性期治療薬と予防は分けて考えるべきです。急性期治療には治療薬は必要不可欠だと考えますが、慢性期・予防目的には薬はないに越したことがないというのが私の考えです。具体的にいうと高血圧・糖尿病・高脂血症・高尿酸血症などの治療薬???のことですけどね。
Re: 急性期治療と予防の違い
コメント頂き有難うございます。
ご指摘のように、救急医療や急性期医療はパラダイムシフト後も必要な医療だと私も思います。
しかし亜急性期から慢性期医療にかけては無駄が多くあると思います。その辺りを正していきたいですね。
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