一例では肯定も否定もできない
2014/09/10 00:01:00 |
よくないと思うこと |
コメント:10件
ホリエモンの愛称で知られる,元IT企業社長の堀江貴文氏ですが,
プロ野球球団買収や,政治家転身など次々と話題になり,一躍時の人となりました.
しかしながら,有価証券報告書に虚偽の内容を掲載したとする疑いがかかり,裁判の結果,2011年4月懲役2年6か月の実刑判決が確定しました.
そして堀江氏は2011年6月20日に長野刑務所へ収監され,実に2年6ヶ月の刑期を果たし,2013年3月27日朝、仮釈放となったようです.
ただすごい事に堀江氏は,その収監中もスタッフを通して、Twitterやメールマガジンを情報発信したり,書籍を出版するなど精力的に社会的活動を行っていたそうです.まさに「転んでもただでは起きない」を地で行くような方です.
その堀江氏ですが,著書の中で収監中に30kgのダイエットに成功したという事を書かれています.
その内容が麦飯,ナス,キャベツなどの味噌汁,ノリの佃煮など,いわゆる和食中心の献立だったので,
「糖質たっぷりの食事だったのに堀江氏は30kgやせている,だから糖質制限は正しくない」という批判を聞く事があります.
刑務所なう。 完全版 (文春文庫) 文庫 – 2014/7/10
堀江 貴文 (著)
この本の中で,堀江氏は収監中に食べていた食事の献立を事細かに記録されています.
そのメニューを見ますと,たしかに麦飯を中心に糖質主体の食事といってよい内容ばかりです.
これで30kgやせたという事実は,糖質制限の合理性を考えると,非常に納得がいかない話です.
はたして糖質制限は間違っているのでしょうか.
いえいえ,よく考えればわかるように,
当然ながらこの一例で持って糖質制限が正しいか,間違っているか論じるのはナンセンスです.
もし刑務所の糖質主体の食事がダイエットによいという事を本当に言うためには,
堀江氏の一例だけではなく,刑務所の服役する囚人の集団で同じ現象が再現されているかどうかというデータを示す必要があります.
極端な事を言えば,堀江氏の体質が特殊であるかもしれません.
「たかが一例,されど一例」の考え方は大事ですが,
一例で結論を導くというのは,科学者としては不適切な姿勢です.
一例を元に出てきた気づきや疑問が,再現性を持つ事実となるかどうかを丁寧に検証していくのがあるべき姿だと思います.
ただ,私は堀江氏が特殊な体質を持っているとは思っておりません.
それは堀江氏の発言を読み解く事で見えてきます.
例えば,上記の著書の中で,食事について書かれたところにこう書かれています.
(p21より引用)
今日の晩御飯は麦入りご飯に,牛乳,甘い煮豆,カレー風味のグリーンピースと肉と玉ねぎとにんじんの炒め物に中華風スープ.
これでも,未決勾留者と同じ一番カロリーが低い食事なのだけど,ご飯は残した.
(p28より引用)
配色の時間.今日は麦ごはんにナスとキャベツなどの味噌汁.アサリの佃煮,ノリの佃煮.
麦ごはんは相変わらず多いので食べきれない.
(p34より引用)
昼飯は麦飯,オムレツ×2,切り干し大根の煮つけ,野菜スープだった.オムレツが旨くてごはんを完食した.
しかし,3日間連続の禁酒で夜に食べない生活をしているので心なしか腹がへこんできた気がするぞ……!!
堀江氏は実際には刑務所で出された食事の中の米の摂取量を抑え,
よしんば米を完食した時にも,夜を食べないといったプチ断食の要素も取り入れておられます.
もしかしたら収監時には糖質制限の存在を知っていたのではないでしょうか?
堀江氏がどの時点で糖質制限を知ったのかは,私が調べる時点では明らかにする事はできませんでしたが,
堀江氏が糖質制限について語っている文章が以下の雑誌に記載されています.
Sports Graphic Number Do Early Summer 2013 太らない生活2013 (Number PLUS) ムック
「ホリエモン,刑務所ダイエットを語る」
ん?完食?残したのか完食したのかどっちなんだ?という気も正直いたしますが,(以下,引用)
「糖質制限については一家言あるんですよ」
(中略)
―堀江さんは1日,2600キロカロリー.食事は残さず食べたんですか?
「完食しないとお腹が減って大変ですよ」
(引用,ここまで)
堀江氏が少なくとも釈放後の時点では糖質制限の存在を知っていた事はこの文章から明らかです.
糖質制限について知っていたかもしれない,ごはんを残していたかもしれない人間が刑務所でやせたという事実,
この事実で以て,「刑務所の食事がやせるのに適した食事」だというのは
無理があると言わざるを得ないでしょう.
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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3日だ!
私も昔、玄米を食べながら脂肪肝を改善しましたよ。
まあ、寝る前の一食は玄米も抜いてたかもしれませんけど(多少は炭水化物制限の知識はあった・・・)
基本的には食べる量を減らすダイエットでした。
2年で脂肪肝が改善しましたが、ずっとお腹が減っていた感じでした。
もし今、魔法で脂肪肝にしてくれたら、3日で脂肪肝が無くなると断言できますね。腹いっぱい食べて・・・。
Re: 3日だ!
コメント頂き有難うございます.
> 空腹に耐えることが出来たら、カロリー制限でもダイエットもできると思うんですよね。
そうですね.
しかし御指摘のようにカロリー制限でやせるのは効率が悪く,維持するのが困難です.
今もやせた状態で維持できているという所をみますと,どこかの時点で糖質制限に切り替えていたと考える方が妥当に思うのですが….
No title
また面白いことに、豆腐店と共同で製作したカロリー・糖質半分の「豆腐生チョコ」というものもプロデュースしているようです。糖質に目をつけているあたり、やはり意識しているのでしょうね。
ただ、刑務所内で最も減量に影響したのは規則正しい生活という気もします。適度な食事と適度な睡眠と規則正しい生活、適度な負荷が、代謝を活発にして、正常な健康状態に導いたのだと思います。
あと思うのは、間食や甘いおやつ・清涼飲料などを摂取する機会が極めて少ないでしょうから、麦飯などは多くとも自然と糖質オフになっているのだと思います。
私も以前は麦飯を食べていましたが、整腸作用は感じても痩せることはなかったですね(笑)
糖質はほとんど変わらないのですから当然ですね。白米よりかは健康的とは今でも思っていますが。
やや盲信しすぎでは?
最近では、こういう研究報告もあります。
http://www.bbc.co.uk/news/health-29031985
海外の医療研究も広範にかんがみて、お勉強なさったほうがいいのではないでしょうか。
さらに、体重や血糖値だけでなく、癌や心臓疾患などとの関連、また、体全体に及ぼす長期的な影響を考えると、極端な食生活(MECとか)がいいとは思えません。
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
> 刑務所内で最も減量に影響したのは規則正しい生活という気もします。適度な食事と適度な睡眠と規則正しい生活、適度な負荷が、代謝を活発にして、正常な健康状態に導いたのだと思います。
確かにそういう側面もあると思います.
もともとの食生活が乱れていたので,緩い糖質制限でも十分な効果が出たのかもしれません.
にしても減量のスピードや,現在ほぼ理想体重に近い状態をキープされている様子をみると,実はかなり糖質制限を意識していたのではないかと考えてしまいます.あくまでも推測ですが.
Re: やや盲信しすぎでは?
コメント及び情報を頂き有難うございます.
信じる信じないというより糖質制限の理論は科学的事実なので,食事療法を考える上での基本事項だと私は捉えています.
世界に食事療法は数あれど,ここまでシンプルかつ理論的に明解なものは他にないのではないでしょうか.
一方,食事療法に関する疫学的エビデンスの数々はそのほとんどが糖質ありきのデータなので解釈に注意を要すると思います.
とにかく糖質制限の観点で世の中の既成事実を全て見直していく必要があると考えています.
そして,その上で患者さんのライフスタイルに合わせて指導のやり方を微妙に変えて対応するという事を私はしています.
超合宿
あとリバウンドしないというのは、カロリー制限ダイエットをしている人でも、炭水化物を食べ過ぎれば肥るということが常識として浸透してきたのかな?
私達の時代はオカズ抜きでご飯だけを食べるダイエットでしたからね。
それでも我慢すれば痩せないことはないですけど。
力石徹に憧れて意味もなく断食しましたからね。
刑務所の食事
昨夜、水曜日のダウンタウンという番組に堀江さんが出演しており、刑務所の話をしていました。
食事についての話もあり、元受刑者の方たちが、いろいろと語っていましたよ。
食事は、厚生労働省が推奨する内容に合わせたもので、塩分は1日9g未満を徹底されるそうです。そのため、料理はすべて薄味とのこと。
食事での楽しみは、週に2回出るパンとたまに出るカレーライスだそうです。
食事内容はかなり質素で、タンパク質と脂質が少ないようでした。量は、コンビニで売っている500円程度の弁当くらいですかね。
多くの元受刑者の方が、出所後最初に食べるものは、スイーツのような甘いものか、ファーストフードのようなこってりとしたもの、あと寿司だそうです。
刑務所内の食事が薄味なので、糖分への欲求が沸いてきて、出所後にスイーツを食べたくなったと、ある元受刑者の方が述べていました。おそらく、ここでいう糖分とは甘味のことなのでしょう。
放送内容を見ていると、食事の量が少ないように感じました。刑務所に入ると痩せやすいのは、これが理由ように思えます。
それと、元受刑者の方に太っている方はほとんどいませんでした。
Re: 超合宿
コメント頂き有難うございます.
> 合宿して専念すると、カロリー制限ダイエットでも失敗することが少ないかも知れませんね。
確かに環境は大事です.
際限なく食べ物が置いてある環境だとついつい手が伸びてしまいますが,
そこに食べ物がないとわかっている状況であればあきらめもつくというものです.断食道場での私がそうでした,
Re: 刑務所の食事
貴重な情報を頂き有難うございます.とても参考になります.
> 食事での楽しみは、週に2回出るパンとたまに出るカレーライスだそうです。
> 多くの元受刑者の方が、出所後最初に食べるものは、スイーツのような甘いものか、ファーストフードのようなこってりとしたもの、あと寿司だそうです。
> 刑務所内の食事が薄味なので、糖分への欲求が沸いてきて、出所後にスイーツを食べたくなったと、ある元受刑者の方が述べていました。
象徴的ですね.
結局低カロリー食(高糖質・低脂質・低蛋白食)と間食,飲酒ができないという定められた環境の中で,
収監前の状態に比べる幾分低糖質になるという事でやせていく,という事なのでしょうかね.
しかし,糖質への欲求が刺激され続けているので,受刑者の方々はさぞ辛いことと想像します.
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