第二波ではなぜ高齢者の重症化率も低いのか

2020/07/31 08:00:00 | 素朴な疑問 | コメント:2件

正直、新型コロナウイルス感染症にかかった患者の数が増え続けていた第一波と呼ばれる3-4月頃の段階では、

7月になった今頃、第二波と呼ばれるようなPCR陽性者数の増加の波が来ることは全く予想していませんでした。

通常の「かぜ症候群」に準じたウイルスであれば、夏になれば患者数が減ってくるだろうと思っていた予想を大きく裏切られた形です。

一方で色々なところで聞かれるように、第一波と第二波はその総数における重症者の割合において全く違う質のものです。

夏に感染者数が減る予想が裏切られたのも、人類史上初の無症状感染者を積極的にピックアップしようとした世界的な流行的行動の影響が大きかったと私は見ています。

その結果、今までであれば存在さえ気づかれなかった無症状感染者の大半を占めるであろう若者のPCR検査陽性者の存在が明るみとなったため、その数の多さが第二波の波となり、

相対的に無症状感染者が多くなっていることから、重症化の率としては低くなっているという要素はあると思います。

ただ、それにしても今回の第二波は高齢感染者の絶対数が少ないとは言え、その中で重症化する人も少ない印象があります。 第一波(3月ー4月頃)での高齢感染者の重症化率を示す正確なデータが入手できないのですが、

たとえば7月30日の東京都の公開データで考えてみますと、総感染者数は12228名、重症者はわずか22名です。

多分22名の中での高齢者割合は多いのであろうと推察されますが、12228名の中で高齢者はどのくらいの割合であるのかがわかりません。

ただ7月30日の総感染者数が367名で、各年代の感染者がそれぞれ以下のようになっています。
10歳未満2名、10代9名、20代147名、30代89名、40代53名、50代30名、60代13名、70代16名、80代5名、90代3名、100歳以上0名、不明0名

このデータで仮に60歳以上を高齢者として、割合を求めると(13+16+5+3)/367=37/367≒10.8%です。

これを踏まえて総感染者数のだいたい10%が高齢感染者だと仮定しますと、12228名中の1223名が高齢感染者となります。

もしも重症者22名の全員が高齢感染者だとすれば、22/1223名≒1.8%が高齢感染者の重症化率となるでしょう。

6月時点での厚生労働省の資料では高齢者の重症化率は14.9%と試算されています。

どちらも推定を含めた試算での%なので、正確ではないということを加味しても、やはり第二波においてはハイリスクと言われた高齢者でさえ重症化しにくい状況が生まれています。

もっともこのことは、そんな小難しいことを言わなくても、「重症者の絶対数が少ない」という事実からも言えることかもしれません。

なぜ以前と変わらずハイリスクであるはずの高齢者において、新型コロナウイルスのPCR検査の陽性者が多数確認されている状況の中で、重症化する率が下がってきているのでしょうか。

世間で多い見方は「ウイルスが弱毒化したからだ」というものだと思いますが、

私はそもそも「弱毒・強毒」という概念そのものに疑念を持っていますので、仮にウイルスは今までと大差ない性質のものであったと仮定して理由を考えてみます。

まず現在感染している高齢者の方は、少なくとも第一波の時の新型コロナウイルスの感染拡大を乗り越えた実績があります。

何せ相手は目に見えないウイルスですので、それがうまくウイルスとの接触を避け切れたからなのか、それともウイルスとは接触したけれどもそれでも大丈夫だったのかのどちらであるかを断言することはできませんが、

第一波は基本的に全国にウイルス感染者は拡大していた(少なくともPCR検査の陽性者は全国に拡大していた)ということ、

またマスクの予防効果は証明しきれていないことをはじめ、基本的にウイルスを避け続けるのは無理なアプローチだと考えられること、

そしてヴァイロームと呼ばれる常在ウイルス叢があり、コロナウイルスも含めて健康人内にもウイルスが無数に存在している事実があり、その人の体調次第では常在ウイルスが病原性を発揮しても不思議ではない状況にあるということから考えますと、

第一波の新型コロナウイルス感染症、というより広く「コロナウイルス感染症」と捉えた方がよいかもしれませんが、これには当該の高齢者は発症せずに済む免疫システムを持っていたという可能性が高いです。

日本の集団における抗体検査での陽性率の低さを踏まえますと、その免疫システムは自然免疫中心であった可能性が高いです。

現在重症化しているという推定1%程度の高齢感染者は、ウイルスとの濃厚接触があったか、本人の免疫状態が下がる要因が加わったかで、第一波の時よりも重症化しやすい状況に陥ったのかもしれません。

それともう一つの可能性についてですが、これは諸外国での新型コロナウイルス感染者動向を踏まえて言えるのですが、

「死因を新型コロナウイルス感染症としうる患者が底をついてきた」ということも考えられるように思います。

もしも「弱毒・強毒」という概念がなくて、今世界で猛威をふるう新型コロナウイルスが遺伝子の微妙な違いはあれど、基本的にはコロナウイルスの範疇を超えない性質的には大差ないものすれば、

アメリカやブラジルのような感染者急増し死亡者が多い国々も基本的に日本と同じようなコロナウイルスだということになります。

ではなぜこれらの国々での死亡者は増えているのかと言いますと、以前にも考察しましたが、その国の社会として新型コロナウイルスに恐怖を感じていればいるほど、あらゆる死者を「新型コロナウイルス感染症」と診断しうることが影響している可能性があります。

心不全でなくなっても、脳梗塞でなくなっても、腎不全からの尿毒症でなくなっても、肝性昏睡でなくなっても、はたまた外傷でなくなっていたとしても、

死因究明で新型コロナウイルスのPCR検査を実施して陽性と確認されれば、すべて死因が「新型コロナウイルス感染症」と判断されてしまうような状況が、死亡者急増国で増えている可能性は十分にあると思います。

死者数はごまかせないかもしれませんが、死因はごまかす、というか社会の風潮を受けて死因判定が偏るということは十分にありえます。私も医師として死亡診断の構造を知っているのでこのことを理解することができます。もしかしたら一般の方にはにわかに信じがたい話かもしれません。

しかしそのことを示唆する傍証として、ロックダウンや感染者の取り締まりを厳格に行っている国々、あるいはノーガード戦法であってもそのことに恐怖を感じている国々では死亡者が急増します。

一方で同じノーガード(厳密にはノーガードではないですが)でも、スウェーデンでは死亡者は増えたように見えますが、これとて新型コロナウイルス感染症と診断しうる患者が割と妥当に診断しえた結果だと考えられます。

スウェーデンでさえ、他の北欧諸国との違いを踏まえますと、割と多めに死因が新型コロナウイルス感染症だと見積もられた可能性が高いとさえ思いますが、

そういう意味で本当に注目したいのは、2020年全体での総死亡者数が、例年と比べてどうなるかです。いわゆる「超過死亡」が年単位でどうであるかです。

勿論、恐怖で混乱した社会ほど医療体制が崩壊しているので、本来救える患者さえ救えていないので、そういう国では年単位の「超過死亡」も増えてしまっている可能性が高いですが、

注目はスウェーデンのようになるべくいつもの体制を維持したような国で、「超過死亡」があるかどうかだと思います。

もしもスウェーデンで一時的に新型コロナウイルス感染症により死亡者が急増したように見えたけれど、

年間の死亡者で比べると大差はないということが証明されたとすれば、本来なら別の死因だと判断された患者が新型コロナウイルスPCR検査の社会的要請を受けて「新型コロナウイルス感染症」だと医師がミスリードされてしまっただけだったという話となり、

一連の新型コロナウイルス騒動はとんでもない勘違いであったという事実が導かれることになるでしょう。

その結果多くの人はそれを認められないかも知れませんが、きちんと自分の頭で考えられる人は受け入れられるのではないかと思います。

この私の仮説が正しいのだとすれば、日本ではそのような死因のミスリード診断が世界各国の中では少ないということになり、

日本の医療の質が全体として保たれており、なんでもかんでも「死因は新型コロナウイルス感染症」だと判断されていないということの傍証になるのかもしれません。


まとめると、第二波で高齢者が重症化しにくくなった理由としては、

①すでに(新型)コロナウイルスに対する免疫を持っている人ばかりとなっているから
②社会の混乱がなく死因が「新型コロナウイルス感染症」へと過剰に判断されることが少ない医療体制を保っているから


というのが現時点での私の考えです。

今後の動向を引き続き注意深くかつ冷静に見守っていきたいと思います。


たがしゅう
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コメント

日本の重症化率・死亡率が低い理由

2020/07/31(金) 22:11:10 | URL | ジョー #-
たがしゅう先生

いつも示唆に富む記事をありがとうございます。先生もご存知だと思いますが、高橋泰教授が、新型コロナの日本の重症化率・死亡率が低い理由に関し「感染7段階モデル」を発表されています。
https://toyokeizai.net/articles/-/363402

たがしゅう先生は「自然免疫が対処しきれない事態」で、

>「ウイルスの血液侵入=重症化」ではなく、
>やはりウイルスの血液への侵入は重症化の
>必要条件に過ぎず、必要十分条件ではない
>のでしょう。
>血液に「非自己」が侵入したとしても、
>それが速やかに排除される、もしくは
>「自己」と相同性のあるものとして
>認識され共存できるようになる、
>そのための「自然免疫」システムが
>重症化するかどうかの命運を握っている
>ように私には思えます。

と述べらていますが、高橋教授も自然免疫と獲得免疫、曝露と感染を切り分け、日本の重症化率の低い原因について説得力のある仮説を提示されていると思います。先生のご見解をお聞かせ頂ければ幸いです。

Re: 日本の重症化率・死亡率が低い理由

2020/08/03(月) 05:59:47 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
ジョー さん

 御質問頂き有難うございます。

> 高橋泰教授が、新型コロナの日本の重症化率・死亡率が低い理由に関し「感染7段階モデル」を発表されています。
> 先生のご見解をお聞かせ頂ければ幸いです。


 承知しました。少し思うところはありますが長くなりそうなので、ブログ記事の方で返答させて頂きます。

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