こどもの自然免疫を乱すもの

2020/05/25 18:00:00 | ウイルス再考 | コメント:4件

前回、欧米を中心に発生する小児の新型コロナウイルス感染症に関連すると見られる重度の血管炎症候群と、

それに類似する川崎病との関連、そこには自然免疫システムの不具合が背景にあり対応するウイルスの感染を契機に、

自己にて炎症システムを制御できなくなるという過剰適応が病態に深く関わっているのではないかという考察を行いました。

近年、この欧米での新型コロナウイルス関連の川崎病様の血管炎症候群のことは、「小児発症性多系統炎症症候群(PMIS;Paediatric multisystem inflammatory syndrome)」という新しい疾患概念で捉えられ始めているようです。

このPMISにしても、日本人の小児に多いとされる川崎病にしても、

そのような自然免疫システム異常を背景に、新型コロナウイルスに限らない別の何らかの外来抗原によって、

持続的に異物排除反応が誤って駆動され続けているという可能性が十分に考えられるわけですが、

そうするとこれは以前の記事でも触れた「自己炎症性疾患」の範疇に入ってくるように私には思えます。 ただ通常、「自己炎症性疾患」というのは「自然免疫システムに異常を示す遺伝性の疾患」のことを指しています。

今回の新型コロナウイルス感染症に関わるPMISは遺伝性疾患ではないようにも思えるわけですが、

その患者数が全体の小児の中で極めて少数(5月15日時点でヨーロッパ全体で230例のみ)であることから、ウイルス感染だけではなく何らかの遺伝要因が深く関わっている可能性が強く疑われます。

しかもアメリカやイタリアなどの新型コロナウイルス感染症が急増している国において、例年の同世代のこどもの重度炎症性疾患の数と比べても圧倒的に増加(※イタリアでは30倍)していることから、

感染症的な特徴も合わせもっていると考えてよさそうなので、このあたりの特徴は川崎病とそっくりです。


さて、これまでにも研究されている川崎病について自然免疫との関わりはどうなのかを調べてみますと、

川崎病では自然免疫が過剰に亢進しているということが判明しているようです。

「自己」と「非自己」を区別する自然免疫システムが過剰に働くのであれば、これらをきちんと区別しまくることができるのかと思いきや、

結果的に自然免疫システム亢進の川崎病では、血管炎症候群という「自己」をモロに攻撃し続ける病態が実際には発生していますので、

自然免疫システムは働き過ぎても、働かな過ぎても、結果的に過剰炎症状態を惹起するという結果につながってしまうようです。

これに対して私は、成人の重症化する新型コロナウイルス感染症のケースは、

単なる風邪が、不安/恐怖情報によって大きく修飾され、これまでの身体のシステムの酷使もあいまって、自然免疫システムが後天的に障害(システム機能低下)されてしまった状態だと分析しているわけですが、

自然免疫システムの障害というのは、人生の中で心身の様々なシステムを偏って使い続けた結果として起こってくる現象だと考えています。

そう考えれば、高齢者や基礎疾患で新型コロナウイルス感染症の重症化が多いということも説明がつきますし、高齢者であればすなわち高リスクとも限らないという話にもつながります。

しかし、こどもの場合はまだ人生がスタートしてそれほど経っていないし、不安/恐怖情報といってもそれを認識する高次脳機能がまだそれほど発達していないわけなので

成人と同じようなシステムの過剰適応/消耗疲弊から来る後天的な自己炎症症候群だと判断するのはちょっと無理があるように思います。

従って、川崎病で自然免疫が過剰亢進しているという情報を加味すれば、

欧米の新型コロナウイルス関連のPMISでも、自然免疫は低下しているのではなく、過剰亢進していると考えるのが妥当と思います。

だとすれば一体何が、自然免疫を過剰に亢進させているということになるのでしょうか。

遺伝要因と言えばそれまでなのですが、自然免疫は障害されているのではなく、自然免疫が過剰に働いているのが川崎病やPMISの状態です。

システム自体にはエラーはないようです。むしろシステムを働き過ぎとさせている何らかの要因があるはずだと考えられます。

そこで、自然免疫を整える要素として笑いや副交感神経刺激があるということを踏まえますと、

やはりこどもにおいても自然免疫を乱すのは、「交感神経過剰刺激を誘発する何か」ということになるでしょう。

成人と同じような複雑な高次脳機能が関わっていないのだとすれば、こどもにおいてその何かをもたらす要素として私が考えつく要因は大きく2つです。

一つは栄養失調、もう一つは親の愛情不足です。

誤解を恐れず言うのであれば、こどもはより動物的な原始感覚でストレスの有無を判断する傾向があるのではないかと考えていますので、

こどもにとってのストレスは守られていない感覚だと思います。

それは親が回りにいない状況であったり、排泄の際の不快感をすぐに取り除いてもらえないことであったり、

親と触れ合う温かみ、優しい声かけ、目に見えるすべての安心をもたらす環境など、

要するに五感で安心と感じられる刺激がもたらされているかどうかでストレス反応の起こり方が変わってくるのではないかと思うのです。

それが成長するに従って、大人のように高次脳機能に伴う不安や恐怖といった高次概念によってストレスがもたらされるという要素の割合が増えていくのだと思いますが、

川崎病の年齢(0〜4歳程度)であればまさに、またPMISの年齢はそれより少し上の年齢だと言われていますが、

いずれにしてもこうした要素が小児の慢性持続性ストレスの発生源として十分考えられるのではないかと思うのです。

そしてストレスを感じたらストレス反応が起こるのは成人と同様ですが、

そのときに深く関わっているのは栄養です。ストレスホルモンの代表格のコルチゾールの材料は脂質から作られるコレステロールですし、

気分安定に関わるセロトニンという神経伝達物質の材料はトリプトファンというアミノ酸、すなわちタンパク質です。

従って、高脂質、高タンパク質状態を作ることができる糖質制限食は、ストレス反応系をつつがなく起こすためにも重要な役割を果たしていると思うわけですが、

何らかの原因でそれが叶わない栄養状態にあるとき、特に高炭水化物中心食で育てられている場合は、

同じストレス反応を要求された場合でも、その反応のスムーズさは変わってくるのではないかと思うのです。

川崎病にしても、PMISにしても遺伝要素だけでは考えにくい状況があります。

その遺伝要素はあるとしても、さらにこども達の免疫を乱す環境要因が何であるかを突き止めることは、

この得体の知れないウイルスによる感染症という概念を解明する手がかりになるはずです。



たがしゅう
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コメント

ストレスとコロナ

2020/05/26(火) 16:07:02 | URL | タヌパパ #-
自分は医療関係者では無いです。ただ、数年前から、このブログや、夏井先生のHP、江部先生のブログの読者で、ゆるい糖質制限・ノープー実践者です。
たがしゅう先生が強調されている「心理的なストレスの影響」についてですが、今回のコロナ騒動について言えば、「コロナが種で、心理ストレスが肥料」との理解で良いでしょうか。逆だと、かなりオカルト的に思えるのですが。
ところで「コロナが種」と書きましたが、今回のコロナ騒動での肺炎による死亡が、「獲得免疫の過剰反応によるサイトカインストーム」という免疫学ベースの説は、その死者が高齢者(特に基礎疾患持ち)に集中していて、生物的には高齢者同様に弱いと思える乳幼児に殆ど見られないことから十分に納得できます。
 とすると、コロナウィルス自体は(疫学的に見て、少なくても東アジアの住民にとっては)毒を発生させたり、直接細胞を攻撃したりする能力が無いことになるのではないでしょうか。(いってみれば「肺まで届く花粉」的なもの)
 疫学的や免疫学的なアプローチは、「黴菌がいるのが悪いのだから消毒しましょう」的対応と比べて分かりにくいので、政府もマスコミも無視に近い(本当に分かっていないだけかも?)ですが、その理解が進まないと心理的なストレスも解消せず、2次流行で同じ大騒ぎが起こるように思えてなりません。

Re: ストレスとコロナ

2020/05/26(火) 20:28:18 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
タヌパパ さん

 コメント及び御質問を頂き有難うございます。

> 今回のコロナ騒動について言えば、「コロナが種で、心理ストレスが肥料」との理解で良いでしょうか。

 そうですね。「生体のシステムを駆動させうるもの」という意味で言えば、心理的ストレスと肥料に共通点はあるのですが、心理的ストレスの方は非物質的、肥料は物質的という意味で少し違います。私の考えではむしろ「人間にとっての糖質」と「植物にとっての肥料」がリンクする感じです。

 「コロナが種」という考え方は、まるで植物の種のように「病気(感染症)という状態を生み出す種」、という意味でしょうか。そうですね、確かにそういう側面もないわけではないですが、それだとコロナが病気を起こすために必須の存在だというニュアンスを私は感じてしまうので、これも少し違います。

 コロナをきちんと「非自己」と判断できる自然免疫システムが働く人にとってはコロナは種ではなく単なる異物、
 コロナをきちんと「非自己」と判断できない自然免疫システム状態にある人にとってはコロナは病気(感染症)という状態をもたらす種となりうる、という感じだと私は思います。

> コロナウィルス自体は(疫学的に見て、少なくても東アジアの住民にとっては)毒を発生させたり、直接細胞を攻撃したりする能力が無いことになるのではないでしょうか。

 理由はともあれ、ウイルスが毒を発生させたり攻撃したりするような存在ではないという点は同意です。
 毒を出したり、直接攻撃されたりしているように見えているものは、全て自分のシステムのオーバーヒートだと思うのです。だから私はウイルス対策として自分の中のシステムを整えるアプローチが理に適っていると考えています。その中でこの新型コロナウイルス感染症に最も重要な位置を占めるシステムの調整法がストレスマネジメントだと私は考える次第です。

No title

2020/05/27(水) 06:04:06 | URL | タヌパパ #-
たがしゅう先生

丁寧なご回答ありがとうございす。
個々人のストレスに注目する考え方は、免疫学的なアプローチと共通すると考えてよいでしょうか。
先生の考え方に強く共感しますが、一方で「主体的に考えること」が「強いストレスになる」方々が、特に日本では多数派と思われるので、何か手詰まりな感覚が消えません。
ストレスと共存しつつ、体温を高める等で免疫力を高めることも現実的には多くの人を救う手立てだとも思います。(対処療法で根本を残す方法だとは理解していますが。)

Re: No title

2020/05/28(木) 10:44:31 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
タヌパパ さん

 コメント頂き有難うございます。

> 一方で「主体的に考えること」が「強いストレスになる」方々が、特に日本では多数派と思われるので、何か手詰まりな感覚が消えません。
> ストレスと共存しつつ、体温を高める等で免疫力を高めることも現実的には多くの人を救う手立てだとも思います。(対処療法で根本を残す方法だとは理解していますが。)


 それは大変大事なご指摘だと思います。
 これについては重要なことなので、ブログ記事にして返答し、読者の皆様とシェアさせて頂ければと思います。

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