量は機能を反映しない

2018/09/21 00:15:01 | ふと思った事 | コメント:2件

糖質制限をしていてケトン体値が高くなればなるほど望ましいとする考え方があります。

中には尿試験紙で尿中にケトン体が検出されるような状況の事を「ハッピーバイオレット」と称して称賛する人もいるそうです。

しかしその考え方に私は異議があります。ケトン体値が高いという事は必ずしもケトン体をエネルギー源として使えている事を意味しません。

もしかしたらケトン体を使えていないからこそ血中に滞っているのかもしれません。

一方でケトン体を次から次へと使っている状況であるが故に高値を示しているという可能性も否定はできません。

要するに高いというデータだけでは、その中で何が起こっているのかを判断するのは難しいということです。
同じことはコレステロールにも当てはまります。

コレステロールが高いことを標準的な現代医療の中では望ましくない事と判断される事が多いですが、

コレステロールは炎症の修復の際にも動員されている物質です。

血管の中で起こっている微小炎症を修復しようと一生懸命コレステロールが産生されて、

炎症の起こる現場に運ばれている状況が反映された結果、コレステロールが高いのかもしれません。

糖質制限が正しくできている状況における一過性のコレステロール上昇は基本的にこの状況を示していると私は考えていますが、

こうした視点がなければコレステロールが高いということは常に悪いことだと認識されてしまうことでしょう。

血液検査のデータが高いとか低いとかで私達は一喜一憂してしまいがちですが、

要は身体の中で何が起こっているかの解釈の仕方が大事です。

そしてそれが好ましい変化なのかどうかはデータの値そのものに注目するよりも、

自分の体調を参考に考えることが判断を誤らないための秘訣ではないかと私は考える次第です。


こんなパターンもあります。とある白血病の患者さんが抗がん剤治療を受けたとします。

その結果、一時的に血小板がかなり低い数値まで減少しますが、抗がん剤の投与からしばらくして次第に血小板の数が回復してくるとします。

しかしその経過の中で、当の患者に血痰など原因不明の出血症状が出た場合、

血小板の数が正常化していれば、誰もこの出血を血小板のせいだと考えないかもしれません。

ところが、実はこの血小板は抗がん剤という細胞破壊薬が事前に使用されたことによって、

数としては正常であっても、出血を止めるという本来の働きが不完全となった質の悪い血小板の集まりであったとしたら、

血小板の数というデータは、出血をしやすいという実情をミスリーディングしてしまうデータとなってしまいます。

また他にも、とある患者でTSHとfree T4は正常、だけどfree T3値が低値というLow T3症候群を呈している人がいて、

これは非常にストレスがかかっていてうまく処理できていない状況と考え、対症療法として少量のステロイドを投与したとします。

ステロイドの主成分であるコルチゾールは通常free T4をFreeT3に変換するのを抑制する働きがありますので、

普通に考えれば、free T3はさらに低い値を呈しそうなものです。

ところが実際に投与してみると、free T3は正常値に変化しているというケースを見た時に、

この患者の中では外部からステロイドホルモンを投与する事によって、自力ではあと一息うまく回すことのできなかったストレス反応を、

うまく回すことができるようになって、その結果free T3の数値までが正常化したと考えることができます。


これら一連のケースから言えることは、

量は必ずしも正しい機能を反映していないということです。

血液検査の目先の数値に捉われて本質を見失ってはいけません。

検査値に人生を左右されてはならないのです。


たがしゅう
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コメント

No title

2018/09/21(金) 17:05:08 | URL | 名無し #-
血液検査の数値は医師が薬を処方する目安の一つになるとは思います。

数値を単純に原因と解釈した場合は結果的にポリファーマシーにつながる可能性が大きく、そうではなく「もしかしら結果ではないのか?」と熟考した場合は結果的にポリファーマシーを回避し糖質制限医療につながる可能性が大きいのではないかと思います。

しかし、これは医師の数値に対する解釈だけの問題ではないと思います。

例えば、患者から「コレステロールの値が高くて不安なんですが...」と激しく訴えられた場合、医師としては「患者の体調に問題はなさそうだけど、基準値をほんの少しだけどオーバーしてるし患者の目先の不安を解消するために、取り敢えずスタチンでも出しておくか。」となってしまう場合が少なからずあると思います。

本来なら、極度のコレステロール恐怖症(^_^;)と思われる患者にはコレステロールやスタチンについて十分説明するのが医師の良心?というものでしょうが、多くの外来を捌かなければならない状況だと時間的に不可能だと思います。

よって、この場合は自分の頭で考えることをせずメディア等に惑わされて「コレステロール=悪」という強迫観念に陥ってしまった患者側に問題がある思います。

で、結局は「体調が最良の健康バロメータ」 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-397.html ということになるのだと思います。

Re: No title

2018/09/22(土) 09:52:22 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
名無し さん

コメント頂き有難うございます。

> 患者から「コレステロールの値が高くて不安なんですが...」と激しく訴えられた場合、医師としては「患者の体調に問題はなさそうだけど、基準値をほんの少しだけどオーバーしてるし患者の目先の不安を解消するために、取り敢えずスタチンでも出しておくか。」となってしまう場合が少なからずあると思います。

御指摘の状況は医師にとっても患者にとっても、検査値に支配されている思考だと私は思います。
検査という科学技術が台頭したことにより、動物界全般で用いられていた体調という優秀なバロメータを唯一自らの手で放棄して、しかもその検査値によって高度に発達した脳機能がかえって揺さぶられて必要以上の害が身体にもたらされてしまっている状況が多くの場面で見受けられるように思います。

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