限りあるエストロゲンを大切に
2018/05/28 00:00:01 |
医療ニュース |
コメント:12件
以前は糖質はドーピング的な働きを示すことを書いた記事の中で、
甘い飲料をよく飲む女児では初潮が早まるというニュースでの記事を紹介しましたが、
この度何気なくまたケアネットニュースを見ていると、
そのニュースの裏の側面に当たる内容を見かけましたので、紹介したいと思います。
食事内容で閉経時期が変わる?
提供元:HealthDay News公開日:2018/05/25
(以下、記事より引用)
食事の内容が女性の閉経の時期を左右する可能性があることが、新たな英国の研究で示された。
精製炭水化物の摂取量が多い人は閉経が早く始まる傾向があり、青魚や豆類を多く取る人は閉経が遅いことが分かったという。
3万5,000人以上の中年期の女性を対象に食事とがんの関連性を調査しているUK Women’s Cohort Studyの参加者で、
自然閉経を経験した女性を調べた今回の研究結果は、「Journal of Epidemiology & Community Health」4月30日にオンライン版に掲載された。
今回の研究では、英イングランドとスコットランド、ウェールズに住む40~65歳の女性を対象に、食物摂取頻度調査票を用いて217種類の食品の摂取パターンを調べた。
自然閉経の定義は、少なくとも12カ月連続して月経周期が停止している状態とした。
約1万4,000人の女性を4年間追跡した結果、914人が自然閉経を迎えた。
閉経開始の年齢は平均で51歳であったが、白米やパスタなどの精製炭水化物の摂取量が1日あたり1人前増えるごとに閉経が1.5年早まった。
一方、青魚と豆類の摂取量が増えるごとにそれぞれ3.3年および0.9年閉経が遅くなり、ビタミンB6と亜鉛の摂取も閉経を遅らせることが分かった。
こうした関連がみられる理由は分かっていないが、
「精製炭水化物はインスリン抵抗性の主な原因の一つとなる。血液中のインスリン値が高いと性ホルモンの活性が阻害され、エストロゲン値が上昇する。いずれも月経周期を加速させ、早期閉経につながる」と研究著者である英リーズ大学食品科学食物栄養科栄養疫学グループのYashvee Dunneram氏は説明する。
だたし因果関係は不明であり、これまでの研究からは、早期閉経によってリスクが上昇する疾患もあれば、低減する疾患もあることが分かっている。
また、研究ではベジタリアンの女性は肉類をよく食べる女性に比べ、閉経が約1年早かったが、
その一方で肉類をよく食べる女性でもポテトチップスやプレッツェル、ピーナッツなどのスナック類をよく食べる人は、そうでない人に比べて閉経が2年早いことも明らかになった。
しかし、食品と閉経の関係を詳しく分類するには、さらに研究を重ねる必要があるとDunneram氏は述べている。
米ワシントン大学セントルイス校のConnie Diekman氏は「閉経年齢には遺伝の影響もあり、食品は一つの因子にすぎない」と話す一方、
今回の研究は「動物性タンパク質から植物性のタンパク質を中心とした食事へ切り替えることが健康全般のために重要である理由を示すものだ」と述べている。
米テキサス大学サウスウエスタン医学センターのLona Sandon氏もこれに同意し、女性は健康のためにも魚や豆類の摂取量を増やす方がよいと助言している。
(引用、ここまで)
精製炭水化物摂取量が多いほど早期閉経
ベジタリアンは肉食中心者よりも早期閉経
肉食中心でもスナック類を多く食べている人で早期閉経
これすなわち、糖質摂取量が多ければ多いほど早期閉経に傾くという事を示すデータであるように思えます。
そして甘い飲料をよく飲む女児で初潮が早まるという研究結果と併せますと、
糖質過剰摂取が初潮も閉経も早めるという糖質のドーピング的側面がよりクリアに示されたように捉えることができます。
背景には引用記事中の研究者の考察にもあるように、おそらく高インスリン血症と性ホルモンの関わりがあるのではないかと私も考えます。
エストロゲンは私の考察では生命維持ホルモンですが、
インスリン分泌によりエストロゲン分泌が促される側面があるとすれば、いたずらにエストロゲン分泌が刺激されることは、
ドーピング的な側面の説明にもなりますし、早期にエストロゲン枯渇をきたす説明にもなりますし、性ホルモンバランスを乱すことで月経関連疾患の原因にもなりうることの説明にもなります。
インスリンとエストロゲンの関わりに関しては、LPL(リポタンパクリパーゼ)という脂肪細胞の周囲の毛細血管壁から脂肪細胞に対して脂肪をため込むように働きかける酵素にまつわって互いに逆の働きを示すことがわかっています。
すなわち、インスリンはLPLを活性化して太らせるように働きかけますし、エストロゲンはLPLを抑制して太らせないように働きかけます。
という事はインスリンがたくさん出れば、太りやすくなる状況に対して抵抗するようにエストロゲン分泌も刺激される、と考えれば理解がしやすいですね。
やはり高インスリン血症をきたしうる糖質摂取は、
自然界でのヒトの食性ベースで制限されるべきだと思います。
最後の「動物性タンパク質から植物性のタンパク質を中心とした食事への切り替え」の推奨に関しては、必ずしも賛同しかねるところがあります。
「ベジタリアンが肉食中心者より早期閉経」という結果を踏まえれば、動物性タンパク質の優位性が強調されてもおかしくなさそうな状況ですが、
「植物性がヘルシー」という研究者の主観が入ってしまっているのでしょうか。
いかなる人物の言うことでも鵜呑みにしてはいけないことの大事さを改めて感じる次第です。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
LPL
今日のブログでLPLについて記載がありましたが、LPLが活性化すると脂肪の分解が進むと思っていました。やせる方に進むのではないでしょうか?
いかがでしょうか?
Re: LPL
御質問頂き有難うございます。
> LPLが活性化すると脂肪の分解が進むと思っていました。やせる方に進むのではないでしょうか?
LPL(リポタンパク質リパーゼ)は、リポタンパク質、すなわち皆様おなじみLDLとかHDLコレステロールの「L」の部分ですが、この中に含まれるトリグリセリド(中性脂肪)を加水分解し、細胞内に取り込ませるよう働きかける酵素です。より正確には、カイロミクロンとかVLDL(Very Low Density Lipoprotein)など中性脂肪割合の高いリポタンパク質に作用してLDL(Low Density Lipoprotein)に変換する酵素です。
ですのでリポタンパク質内の中性脂肪は分解されますが、分解された中性脂肪がグリセロールと遊離脂肪酸となって、遊離脂肪酸が肝臓や脂肪細胞に取り込まれるので、LPLが作用すれば結果的に太る方へ向かいます。
No title
6年目のスタンダード程度の糖質制限をしている娘17歳は、
初潮が15歳始めころ。
そして、均すと、現在まで2~3か月ごとの月経間隔です。
冬期のハードスポーツのせい?で、半年来ないこともあります。
朝が弱いので(学生は誰でもかな?)基礎体温を測るのがなかなかできませんでしたが
最近やっと、本人の自覚がでたらしく、少しずつ測定はじめています。
このデータがしっかりとれたら、報告ものなのでしょうが、
なんせ、本人はのんびり屋なので、危機感はなく、
研究心も私ほどは、なく、ちょっともったいない。
今日の記事から察すると、娘の閉経は私より、ずっと遅くなりそうですね。
そういう私は、40代半ばからの糖質制限だったので、
すでに、閉経しています。
ありがたいことに、身体的な更年期障害というものは、ほとんど、感じていません。
精神的には、どうでしょうかね・・・
息子にはよく「しつこい!」とか、「うるさい!」とか、
文句を言われていますが・・・・
排卵期間
この研究ですが、初潮~閉経の期間およびピルの服用期間は調査対象になっていないのでしょうか?一生の間に排卵できる数は決まっているのではないかと。
わたしは15歳で初潮を迎え、まだ2-3か月おきに月経があります。6年前から糖質制限していますが、いまだ閉経しないのは初潮が遅かったのと、数年間ピルを服用していたためだと思っていました。
追伸
更年期特有といわれる症状は日中の血圧が高いくらいで、自覚症状はありません。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
初潮が遅いことをネガティブに捉えられる方もいるかもしれませんが、
女性として成熟し子供を産み育てられる状況で初めて月経が来て、そして女性としての成熟期間の中でより長く月経がある状態で過ごすことができる事はむしろ好ましいことではないかと私は思います。
Re: 排卵期間
御質問頂き有難うございます。
> この研究ですが、初潮~閉経の期間およびピルの服用期間は調査対象になっていないのでしょうか?
原著論文確認してみました。
HRT(ホルモン補充療法)を一度でも受けた事がある人は研究対象から除外、となっています。
ただ低用量ピルはHRTの範疇に入るのかどうかは明記されていなかったのでわかりませんけれど、多分そういう人も外されているのではないかと個人的には思います。
初潮が遅いことと、糖質制限をしていることは閉経時期が遅いことと関係があると理論的にも言えると思います。
しかしピルを飲んでいれば閉経が遅くなるのかどうかについては定かではありません。
> 一生の間に排卵できる数は決まっているのではないかと。
確かにそう言われてはいますね。
ピルを飲んでいれば月経を抑えるので、その分卵子を温存できるから閉経が遅くなるという考えだと思いますが、
しかし人為的にホルモンを変動させるという行為を加えて卵巣が予定通りの卵子放出を完遂できるのかどうかは何とも言えません。もしかしたら予定より少ない卵子放出になる可能性も否定できません。その辺り私も勉強不足なので、もし何かわかれば何らかの形で報告したいと思います。
No title
私は20歳から30歳までピルを飲んでいました。
初潮は13歳 閉経は49歳(当時大きなストレスを受けたため閉経してしまったようです)
たがしゅう先生のお考えの通り予定より少ない卵子放出だったようです。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
放出される卵子数には個人差も大きいとの事のようで、本当に予定より少なかったかどうかは何とも言えないかもしれません。
それこそ集団レベルでそれを調べた論文でもあれば興味深いのですが。引き続き調べてみたいと思います。
Re:Re:LDL
LPLのうち、骨格筋のLDLでは活性化することで体重減少は期待できないでしょうか?
Re: Re:Re:LDL
御質問頂き有難うございます。
> LPLのうち、骨格筋のLDLでは活性化することで体重減少は期待できないでしょうか?
一見御質問の意味がよくわかりませんでしたが、
「骨格筋 LPL」で検索すると次のような情報が見つかりました。
運動による脂質代謝改善効果の分子機構を解明
- エネルギーセンサータンパク質AMPKの骨格筋における新たな役割 -
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2014/20140403-1.html
これによれば、運動によりAMPKという酵素を介してLPLを活性化させることができ、
その場合は分解された中性脂肪からできた遊離脂肪酸が、肝臓や脂肪細胞にではなく骨格筋細胞に取り込まれ、エネルギーとして利用される、とのことです。
つまりインスリンではなく、運動によりLPLが活性化された場合は体重減少に寄与しうる、ということになりそうです。
御質問の意図はそういうことでよろしかったでしょうか。
私も知らなくて勉強になりました。きっかけを与えて頂き有難うございます。
Re: Re: Re:Re:LDL
ありがとうございます。骨格筋のLPLについてどこかで読んだことがあるように思って質問をさせていただきました。先生に調べていただいたことはズバリです。
骨格筋のLPLの活性化をして減量には運動しかないのですね。
ありがとうございました。
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