検証しようとする努力が感じられない
2018/04/13 00:00:01 |
よくないと思うこと |
コメント:10件
2018年4月5日付の週刊新潮の糖質制限批判記事の検証に戻ります。
そうこうしている間に4月12日付の週刊新潮でも糖質制限批判記事の続編が掲載されたので内容を確認しました。
4月12日の批判内容はよりひどい感じでしたので、良識ある人が読めばきっとその妥当性は私が検証するまでもなくわかるだろうと思います。
その辺りもいずれ時間があれば触れようと思いますが、引き続きマイペースで順番に気になる所を検証し続けていきたいと思います。
今回取り上げるのは、糖質制限ダイエットの指導で動脈硬化が悪化し、脳梗塞を発症したと主張する、
真島消化器クリニックの真島康雄先生です。 まず「糖質制限ダイエット」と表現している時点で、見地が狭いと私などは思ってしまうのですが、
とにかく該当箇所を読み進めてみたいと思います。
(以下p129-130より引用)
(前略)
心筋梗塞、脳梗塞などの予防に詳しい「真島消化器クリニック」の真島康雄院長は、
「数年前、当時60代だった男性を診察した際、糖質制限ダイエットの危険性に気が付きました。」として、こう語る。
「男性は糖質制限を始めた約3年2ヵ月後に脳梗塞になり、右半身が麻痺していました。
で、再発予防をするために私のところに来られたのですが、調べてみると、いつ脳梗塞が再発してもおかしくないほど、動脈硬化が悪化していた。
男性に話を聞いてみると、炭水化物を摂取しない代わりに、トンカツなどの揚げ物をたくさん食べ、お酒も毎日飲んでいた。
当然、すぐに糖質制限をストップするよう、アドバイスしました」
糖質制限開始後、高血圧になったケースもある。
「ある60代の男性は2015年7月までは正常血圧でした。
しかし、8月に糖質制限を始めると、その4か月後には、血圧が上150~160、下85~95に上昇。
翌年には、入浴後に上が200を超えることも2度あり、そのうち、朝の起床後にふらついて真っ直ぐ歩けなくなってしまって病院にかけつけたところ、動脈硬化が進んでおり、一過性の脳虚血症状になっていた」(同)
この男性は糖質を減らした代わりに魚を多く摂る食生活をしていたという。
「肉より魚の方が体に良いイメージがありますが、どちらもタンパク質と脂質には違いなく、たくさん食べると体には悪い。
植物性タンパク質にも注意が必要で、例えば、納豆は特に高脂質なので気を付けた方がいい。
オージービーフのヒレ肉に含まれる脂質は100gあたり約4.8gですが、納豆には100gあたり約10gも含まれています」(同)
糖質制限で動脈硬化のリスクが高まるメカニズムは単純。
糖質の代わりに余分に脂質を摂取することで、血管に"脂"が詰まる動脈硬化の状態が起こりやすくなるのである。
(引用、ここまで)
糖質制限を行った結果、動脈硬化が進行して脳梗塞を発症したと言いたいのであれば、
最低でも糖質制限実施前の動脈硬化の状態を示すデータと、糖質制限実施御の動脈硬化の状態を示すデータがないとモノが言えないはずです。
最初の男性の場合は約3年2ヵ月糖質制限を行って脳梗塞を起こして動脈硬化が進行していたとのことですが、
糖質制限前の状態がわからないのにどうして糖質制限のせいで動脈硬化が進行したと言い切れるのでしょうか。
もしかしたら糖質制限前からすでに動脈硬化は相当進行していたのを、糖質制限をすることで進行を遅らせたものの、予防しきれずに脳梗塞を発症したということかもしれないではないですか。
だからこの状況では「糖質制限のせいで脳梗塞になったかどうか判断できない」というのが正解なのに、「糖質制限のせいだ」と決めつけている時点で真島先生は科学的に公平な態度が取れていないという事になります。
しかも「炭水化物を摂取しない代わりにトンカツなどの揚げ物をたくさん食べ」ということですが、
糖質制限について少し勉強していれば誰でもわかるように揚げ物の衣は立派な炭水化物です。
たくさん食べれば結構な炭水化物(糖質)を摂取していることとなり、この方は「糖質制限をやっているつもり」だった可能性も否定できません。
もっと言えば、中途半端に糖質を摂り、中途半端に脂質を摂るという糖質と脂質の組み合わせが最もリスキーだという考え方もあります。
なぜならば糖質をしっかり制限し、追加インスリン分泌のない状態であれば脂質を過剰摂取したとしても飽和状態となり一定以上は血管内に脂質が取り込まれることはありませんが、
そこに糖質摂取に伴う追加インスリン分泌が加われば、インスリンの作用で中性脂肪が合成され、その分だけさらに血中に脂質が取り込まれるようになり、体内は過剰脂質状態となります。
脂肪と糖の組み合わせが良くないとする某健康ドリンクのCMもありましたが、
その本質は脂肪を飽和状態以上に取り込むことを可能にさせるインスリン分泌刺激にあると言えます。
裏を返せば、不要なインスリン刺激を起こさないようにコントロールしてさえいれば、脂質過剰摂取でも脂質過剰状態にならないとも言えます。
この60代男性患者さんは中途半端な知識で糖質制限を実行した事により、動脈硬化の進行に歯止めが効かなかった可能性があると私は考えます。
それに糖質制限が悪いというのなら糖質摂取すればこの動脈硬化の進行は予防できるというのでしょうか。
従来医学の常識では動脈硬化は緩徐に進行して然るべきものとなっていますし、
私の臨床経験の中でも、ほとんどの場合カロリー制限指導では動脈硬化は経年的に進行していくことを知っています。
二人目の60代男性患者さんに関して言えば、
糖質制限を開始して血圧が上昇するという所までは自覚症状がないからまだ仕方がなかったとしても、
その後風呂上りに血圧200代となり、ふらついて真っ直ぐ歩けない状態ほど体調が悪化しているというのに、
なぜ自分の判断で糖質制限を一旦止めて食生活を見直そうとしないのでしょうか。
この患者さんがどういう気持ちで糖質制限をされていたのかはわかりませんが、少なくとも主体的ではなかったことはみてとれます。
もしかしたら誰かに糖質制限を勧められ、何も考えずに言われるがまま受け身的に糖質制限に取り組んでいたのかもしれません。
あるいは現在の病院医療は医師から処方される薬を飲むという受け身の治療がベースなので、それと同じように食事療法を変更するのも医師の指示がないと変えてはいけないと思っていたのかもしれません。
もし糖質制限を行うかどうかを主体的に判断していれば、糖質制限を緩めるも強めるも自分で自由に調節できるはずです。
糖質制限が元でトラブルを起こす患者さんの本質的な問題の多くは、主体的に取り組んでいない所にあると私は考えています。
また、この糖質制限で血圧が上昇し一過性脳虚血発作へつながったとする患者さんの食生活ですが、
「糖質を減らした代わりに魚を多く摂る食生活」とだけ書かれていますが、これではあまりにも情報が少なすぎです。本当に糖質制限状態になっていたのかどうかこれだけでは定かではありません。
本当に糖質制限が原因なのかどうか検証したいのなら、もっと細かく食事内容を聴取して然るべきではないでしょうか。
それなのに植物性タンパク質の脂質の話などピントがずれた考察をしているのはいかがなものかと思います。それを言うなら植物性タンパク質をどれくらい食べているのかをまず確認し、話はそれからではないでしょうか。
最後に「糖質制限で動脈硬化のリスクが高まるメカニズムは単純」だとして、
「余分に脂質を摂取することで血管に脂が詰まる動脈硬化が起こりやすくなる」と説明されていますが、
すでに述べたことからもわかりますように、これは明らかな間違いです。
追加インスリン作用が働いていなければ余分に脂質を摂取しても血液内で飽和状態となる以上に脂質が体内に取り込まれることはありません。
だから卵は1日1個までといったコレステロールの摂取基準が撤廃されたわけです。
不勉強な週刊誌の記者が間違うのはある意味仕方がないとしても、
仮にも医学部での学業を修めた人が、素人のような勘違いを堂々と語らないで頂きたいものです。
たがしゅう
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Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
私もどうしてこのような到底科学的とは言い難い”不適切発言”を堂々と名出し顔出し肩書付きで公開できる医師がいらっしゃるのかが不思議でしかたないのですが、努めて合理的客観的に考えてみても、やはりどちらかの利益代弁としか思えないのです。薬と同様に。
それは大人の事情だったり社会の仕組みだったりするのは確かです。
ありとあらゆる実社会のサイクルはヒトにとって良いか悪いかではなく、現実にはチカラに近い存在の利益を中心に回っています。
残念ながら綺麗ごとでは現代社会は成り立っていないと思います。
再三、たがしゅう先生が仰っているように、やはりより偏りのない知識を求め、それを可能な限り多角的・客観的に評価・思考できる癖を身につけないと、情報過多の時代だからこそ簡単に操作されてしまいます。
インターネットが庶民生活に定着する前までの中心的な情報媒体である「新聞」「書籍」「テレビ」でよく”お勉強”する方ほど、そうした脅威に知らず知らず晒されていると思います。
何も糖質制限に限った話ではないですが。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 可能な限り多角的・客観的に評価・思考できる癖を身につけないと、情報過多の時代だからこそ簡単に操作されてしまいます。
御指摘の通りだと思います。
ヒトは他の動物たちと同様、環境に左右される生き物です。
しかし他の動物たちと違うところとして脳における発達した前頭連合野があります。
情報を多角的・客観的に評価・思考することは、生物学的には前頭連合野の神経ネットワークを高度化する作業に通じ、与えられたままの情報をただ受け止め続けているだけではそれは成し遂げられないであろうと私は思います。
No title
「糖質制限批判記事の続編」
突っ込みどころ満載で、開いた口が塞がりません。
「糖質制限」という言葉が広く知れ渡り、
「糖質制限」を浅く知り、真実を深く知らないため、
こうした「批判」が後を絶ちません。
現在「糖質制限」は、以前にも増して注目されています。
批判記事を書くと、雑誌の売り上げが上がるのかなと、
「週刊新潮」の悪意すら感じます。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
売れれば何でもいいと考えて載せているのか、
それとも本気で糖質制限批判をしたくて載せているのか、
私にはわかりませんが、どちらにしても賛同できない報道スタンスです。せめて両論併記にすべきだと思います。
週刊新潮の記事について
ぐんぐんと急上昇している株には,誰でも買い注文を出して流れに乗ろうとしますが,その時わざと大量の売り注文を出せば,当然 市場の注目を浴びるので,不安になった人が株を手放せば,高値で売り抜けられるため大儲けできるというものです.
今回の週刊新潮の記事もこれと同じで,世間から支持を集めつつある糖質制限食にわざと『逆張り』した記事を書けば,糖質制限食に賛成の人は「それはおかしい」と思い,反対の人は「それみたことか」と思って,どちらにせよ週刊誌の売れ行きは伸びるだろう,という計算なのでしょう.
個人的には卑劣なやり方と思いますが,商業ベースの週刊誌ならばある意味当然です.
しかしもっとも解せないのは,週刊新潮の記者の薦めに応じて,さしたる医学根拠もないことを述べた医師の方々の心理です.
Re: 週刊新潮の記事について
コメント頂き有難うございます。
なるほど「逆張り」ですか。集団心理を利用した上手な戦略とも言えますが、
裏を返せばそれだけ世間の認知度が高まってきていることの現れでもあるわけですね。
どんと構えて、価値がありそうな批判検証を一つひとつ丁寧に行っていきたいと思います。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
人は、色眼鏡という名の自分の価値観を通じて世界を見ています。
糖質制限実践者が心筋梗塞を起こすという同じ現象をみた時に、糖質制限のせいでそうなったのか、糖質制限での予防が間に合わなかったのかと捉えるかはその人の価値観によるところが大きいと私は考えます。
私は遺伝的にコレステロールが高く、薬も効きにくいためか40代ですが腸骨動脈は7割狭窄、頸動脈も50%の狭窄があります。
なんとかしたい一心でたどり着いたのが真島消化器のサイトで、最初はこれでプラークが減ることにかけていたのですが、読めば読むほど医学に深い知識がない私にも何か違うのではないかと感じることが多く、結局何が正しいのかわからなくなってきていました。
2年ほど真島先生が推奨している食事療法をやっていましたが、プラークは減るどころか増えていて愕然としました…。
でも書籍のレビューなどをみても批判的な人が全くいないのです。だから、やはりこの先生の書かれていることは正しいのか?
…と。
現在の医学会自体が間違っている、自分は未来に必ず来ることになる血管プラークを減らせる医療を先立ってやっている、科学的な食事療法で1000人以上の人のプラークが改善している、みんなこの事実に早く気づいてというように書かれています。
そして糖質制限は緊急情報としてまでやめるように促しています。
糖質制限か、脂質制限か…
どの情報が真実なのか…
結局、現在私は血管プラークが増えてしまう怖さから軽い摂食障害のようになってしまい、決まったものしか食べられなくなってしまいました。
でも今日この記事を読んで、初めて真島先生の考えへの反論の内容にも納得でき、救われました。
言いたいことがうまくまとめられず、
支離滅裂になってしまい長々と申し訳ございません。
これからは糖質制限をしながら様子をみていきたいと思っています。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
自分の健康課題は必ず自分の中に解決への糸口があるはずです。
素人だからと最初から諦めて専門家という名の他人に任せることなく、
他人の考えはあくまでも参考に、自分の頭で考えて決断した方法を選ばれることをお勧めします。
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