ケトン食のメカニズムから見えること
2013/09/10 07:16:55 |
糖質制限 |
コメント:8件
この夏,ケトン食について勉強したことについてもう少し続けます.
ケトン食がなぜ効くか,ということについてはまだわかっていないことも多いのですが,これまでに以下の仮説が提唱されています(Kossoff 2004 Lancet Neurolを改変).
①グルコースの代替え燃料
②GABA様作用
③神経保護効果
④神経細胞電気活動に直接作用
⑤セロトニン系賦活↑
⑥アデノシン抑制系↑
⑦グルタミン酸のシナプス小胞取込↓
ちょっと難しいかもしれませんが,いろいろ見えてくることがあります.
①は脳でブドウ糖を栄養としてうまく使えなくなるGLUT1欠損症という病気での事を言ってます.ケトン体がまさにその代替え燃料というわけです.
②のGABAはギャバと読み,「抑制性神経伝達物質」と言われています.神経の興奮を抑えるのですね.
③,④と合わせててんかんや,さまざまな神経疾患に有効性が認められてきているというのも納得ができます.
⑥のアデノシンは生体内で様々な生理活性を持っています.血圧に作用したり,鎮静・睡眠に作用したり,免疫に作用したり,血管平滑筋に作用したり,これの影響は一口では語りきれないかもしれません.
⑦グルタミン酸は興奮性の神経伝達物質ですが,取り込みを減らすので結果的に②と同様にそれを抑えるということになります.
気になるには⑤のメカニズムです.
セロトニンは簡単に言うと気分を安定させる作用のある神経伝達物質です.
それゆえ一般的な抗うつ薬としても応用されています(SSRI:選択的セロトニン再取込阻害薬→結果的にセロトニンの濃度を高める,など).
だからケトン食(糖質制限)に抗うつ効果があるというのもうなづける話です.
しかし抗うつ薬での抗うつ効果とケトン食での抗うつ効果は決定的に違う部分があります.何だかわかりますでしょうか?
それは自然か?不自然か?ということです.
人間の精神活動はダイナミックに日々刻々とダイナミックに変化しています.
生活していて楽しいことがあったり,嫌なことがあったり,いろいろなことがありますが,私たちは日々無意識下に微妙に神経伝達物質を微調整することで感情を現しています.
抗うつ薬を使った場合,その微調整,変動がどうであっても一律にセロトニン濃度が高められてしまいます.これは自然界ではありえない不自然な状況です.
一方ケトン食でのセロトニン賦活はその変動を邪魔せず,なおかつセロトニンを高めてくれるというわけです.どちらが体にとってよいかは明白だと思います.
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
ケトン食の効果
それと私は遺伝的な不眠症に長年悩まされていたのですが、すっかり改善されました。寝つきが驚く程早くなり、短時間でもぐっすり眠れるようになりました。癌の再発予防にも非常に効果的だと思っています。
セロトニンも自然と出ている感じがあり心も落ち着いてきました。
私が漠然と感じていたことを非常にわかりやすく整理していただいて、これからの励みになりました。
Re: ケトン食の効果
コメント、及び実体験に基づくご報告、誠に有難うございます。
私も自分で実験して血糖値は61まで下がりましたが、いわゆる低血糖症状は皆無でした。
ケトン食の本を読んでいると、低血糖は副作用として紹介されていますが、私はそうではないと考えています。
むしろ代謝がうまくケトンに切り替わっている証拠だと思います。
ここでも「自分で考える力」が大切であることを思い知らされます。
こたろうさんはおそらく上手にケトン食が実践できているのだと思います。
私もがんの再発予防にケトン食は有効と考えます。
うつ病の食事療法の可能性
サラッと書いていらっしゃいますが、⑤の話しには、じぇじぇじぇ!と思っていいんですよね。
私の感覚だと、
糖質をたくさん摂ると身体がだるい。
身体がだるいとやる気が出ない。
だから、糖質をたくさん摂るとやる気が出ない。
の、三段論法かと思っていましたが、もっとダイレクトな話しなんですね。
私がかつてよくやったパターンだと、
だるいけど仕事。電車に乗る。→車内でウトウト、ヨロヨロ、注意力散漫。→ハッと気づいたら降車駅。あわてて降りたら重要書類を車内に忘れる。→ドヨヨーン、やる気が奪われる。
これ、糖質制限してからは、全くなくなりましたから。覚せい剤打ってるかのように元気です。
⑤の話しからすると、うつ病の糖質制限による食事療法にも効果が期待できるかもしれませんよね。
うつで、十年来受診、内服を続けている友人がいるので、さっき電話をして話したら、その情報は知らないそうでした。
なので、彼女に糖質制限を勧めました。(ただ、意欲が乏しくなる病気なので、よしやってみよう!にならないのが残念でした。考えてみるね、と言ってました。)
この考えで治療をしている心療内科の先生もいらっしゃるのかもしれませんね。
Re: うつ病の食事療法の可能性
いつも有難うございます.
精神科,心療内科領域で糖質制限に理解のある先生は確かに何人かいらっしゃいます.
例えば,新宿溝口クリニック溝口徹先生やひめのともみクリニックの姫野友美先生らは「分子整合栄養医学」という糖質制限に近い考え方でうつ病に糖質制限が有効であることを提唱されておられます.(参考書籍:『うつは食べ物が原因だった! 』,『心療内科に行く前に食事を変えなさい』)
しかも何を隠そう私自身も,過去にうつ状態が糖質制限で改善した経験がありますので,実学から検証する立場の私と致しましてはその辺りは非常に納得がいく話なのです.
勿論,効果の程には個人差があるとは思いますが(どれくらいセロトニン系が欠乏しているかにもよると思うので),やってみる価値が十分あると思うし,少なくともうつを悪い方向に持っていくことは無いと思います.
御友人の一助になれば幸甚です.
リスパダールについてのお礼
おかげ様で新宿溝口クリニックの先生のブログにたどり着けました。
近いうちに予約を取って受診出来るのを楽しみしています。希望がより一層現実味を帯びてきた感じで…嬉しさでいっぱいです。質問させていただけて感謝しています。
Re: リスパダールについてのお礼
溝口先生ならば精神疾患の食事療法に御理解があるので頼もしいですね。
治療がうまくいく事を心よりお祈り申し上げます。
感謝します
Re: 感謝します
コメント頂き有難うございます.
絶食療法,大変奥深いですね.私も興味が尽きません.
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