精神科医が鉄欠乏症に注目する理由
2017/11/14 00:00:01 |
おすすめ本 |
コメント:5件
精神科医の奥平智之先生の著書、「マンガでわかる ココロの不調回復 食べてうつぬけ」を読ませて頂きました。
マンガでわかる ココロの不調回復 食べてうつぬけ 単行本(ソフトカバー) – 2017/11/11
奥平 智之 (著), いしいまき (イラスト)
副題に「鉄欠乏女子を救え!」とあり、鉄欠乏症に伴って起こる様々な精神症状、その対策としての糖質制限も含めた食事療法、漢方治療などが紹介されています。
鉄分が欠乏している女性のことをこの本の中では略して「テケジョ」と称して、ソフトタッチなイラストやマンガを交えてわかりやすい説明がなされています。
夏に読んだ同じく精神科医の藤川徳美先生の本と同様、奥平先生も鉄不足をかなり強調されている様子がわかります。 私も糖質制限で「食べてうつぬけ」を経験した身ですから、食事療法でうつ病を治そうとするアプローチには大賛成です。
またタイトルにこそ糖質制限の文字はありませんが、本の前半には糖質制限の重要性についてかなりのページが割かれ説明がされています。
そしていきなり強めの糖質制限を行うには注意が必要なケースとして次の6つが紹介されています。
(p35より抜粋し引用)
1.筋肉量が少ない
2.ビタミンB群不足
3.肝機能低下
4.副腎機能低下
5.栄養不足
6.胃腸が弱い
奥平先生はオーソモレキュラー医学にも精通されている先生です。
オーソモレキュラーの知識があれば、一般的な血液検査でビタミンB群不足を推定する事ができるので、「2.」の観点が入ってくるのだと思いますが、
それ以外は私が臨床的に糖質制限を勧める場合に、緩やかな糖質制限から始めるように勧める人達と同じ印象です。
私的な表現で言えば、「やせ型でストレスマネジメントが不十分な人」となります。
こういう人達は胃腸機能や肝機能、副腎機能が低下していて結果的に栄養が身体に取り込めていないので、糖質制限を勧める場合には慎重さが求められると私は考えています。
その辺りの注意点にもきちんと触れてあるのは非常に良いと私は思います。
一方で私は鉄欠乏症を考える場合、鉄分の絶対量の不足だけではなく、鉄の吸収・利用障害も同時に考えています。
後者の認識がおろそかだとただ単に鉄分を補充するという発想だけで鉄欠乏症を治そうとする発想に陥り、
効かなければどんどん補充する鉄分の量が増えていき、身体にとってはどんどん負荷が強くなり吸収・利用ができなくなるという悪循環となる落とし穴がありますが、
奥平先生は私と同じく漢方医でもあり、その辺りの吸収・利用障害をサポートする漢方薬についても本の後半で割と踏み込んで説明されています。
漢方の話は独特の用語がたくさん出てくるので下手すると一般の人には取っつきづらい内容の話となってしまいがちですが、
そこはマンガのわかりやすさも手伝って、かなり上手にかみ砕いて説明されている印象を持ちました。
総じて良くまとめられた良書でした。
それにしても糖質制限派の精神科医の先生方は私の知る限り、
糖質制限以上に「栄養素の不足」に重点を置かれる先生が多いように思います。
あるいは糖質制限だけでは精神疾患に立ち向かうのは困難だというスタンスの精神科の先生も存じています。
私は栄養素の欠乏はメインではなく、あくまでも栄養素の枯渇をもたらす代謝障害の方が重要だと考えています。
だから代謝を乱す日常的かつ頻度の多い要素としての糖質頻回過剰摂取に注目しますし、
代謝を整える方法としての断食(絶食療法)に意義を見出すわけですが、
精神科の先生は糖質制限だけでは何ともならない症例を数多く経験し、
かつそこに栄養素補充を加えて克服した経験があるからこそそのような考えに行き着くのかもしれないと思いました。
栄養素補充と代謝障害の是正、過剰適応と消耗疲弊へそれぞれの対策、
両者を組み合わせて最善の医療へと近づけるため引き続き考えていきたいと思います。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
鉄不足があると経血が粘りやすくなる、ということでしょうか。
一般的には血液の粘性には赤血球の数や形態、及び血液の含水率が主な規定因子だと考えられています。血液の中で一番多くの割合を占める物質は赤血球であるからです。血の色が赤いことからも理解しやすいと思います。
鉄不足は赤血球が小さくなる方に働きかけます。それが貧血レベルになれば「鉄欠乏性貧血」と呼ばれます。従ってあくまでも理論上ですが、鉄不足が直接的に血液を粘りやすくしていることはないと思います。
ただ鉄不足と同時に脱水やストレスなどの別の要因が加わっていれば、鉄不足の状況下で血液が粘るということは起こりうると思います。
No title
糖質制限指導の前に
ですので自分の中では食事指導の前に食事を受け入れる体制を体内特に腸に変えていく事が重要だと思っております。
鉄剤も然り、処方しても飲めない方は整腸から行わなければならない事が多くなかなか苦労しております。
Re: 糖質制限指導の前に
コメント頂き有難うございます。
> 高たんぱくに持っていけない患者さんの中に特定の食材を食べると体調が悪くなるという方がいます。
オーソモレキュラーで言う所の遅延型アレルギーを彷彿とさせる話ですね。
> ですので自分の中では食事指導の前に食事を受け入れる体制を体内特に腸に変えていく事が重要だと思っております。
私も同意見です。
アレルギーだとすれば対策はアレルゲンの除去だけに重きが置かれがちですが、
大事な事は誤った抗原抗体反応を発生させてしまう体内環境であり、その時に最も重要な役割を果たすのが消化吸収機能だと思います。
従って例えば卵を食べると調子が悪くなるという人へは、卵を控えつつそれ以外の食材で糖質制限を試みながら、必要に応じて消化管を休ませる時間もとりつつ腸内環境を整えていくアプローチをおすすめしたりしています。
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