がんはどうしてできるのか

2016/04/22 14:00:01 | 医療ニュース | コメント:6件

糖尿病とがんには密接な関係があります。

がんは悪性腫瘍とも言い、「遺伝子変異によって自律的で制御されない増殖を行うようになった細胞集団(腫瘍)のなかで周囲の組織に浸潤し、または転移を起こす腫瘍」と定義されています。

統計的にはがんによる死亡率は1950年代より右肩上がりで増え続け、1980年頃より当時の死因第一位であった脳血管障害に取って代わり一位となり、以後も死因の第一位に君臨し続けている病気です。

糖尿病があると癌になる確率が増えるのは疫学的に明らかですし、

そのメカニズムとしては高血糖が酸化ストレスを介してDNA障害をきたすことや、高血糖とともに高インスリン血症ががん細胞増殖を促すことなどが指摘されています。

そんな中、毎度おなじみケアネットニュースから次のようなニュースが流れてきました。

日本での2型糖尿病に関連するがんを2030年まで予測
供元:ケアネット公開日:2016/04/22

(以下、引用)

2010~30年の間、わが国の2型糖尿病によるがんの人口寄与割合は着実に増加すると予測され、

その増加は肝がん、膵がん、結腸がんで著明であることが、東京大学の齋藤 英子氏らの研究で示唆された。Cancer Science誌2016年4月号に掲載。

糖尿病は世界的に主要な疾病負荷であり、その有病率は増加し続けている。

著者らは、日本における2010~30年の2型糖尿病に関連するがんの負荷を推定した。

本研究では、1990~2030年の2型糖尿病の有病率の推定値、国内の8つの大規模コホート研究のプール解析での糖尿病およびがんリスクの要約ハザード比、2010年のがん罹患率/死亡率、age-period-cohort(APC)モデルで予測した2030年の罹患率/死亡率を用いて、2010年と2030年における2型糖尿病に関連するがんリスクの人口寄与割合を推定した。

主な結果は以下のとおり。

・20歳以上の成人において、2010年から2030年の間にがん罹患率と死亡率はそれぞれ38.9%と10.5%増加することが予測された。
・2型糖尿病により過剰に発症するがん症例は、2010年から2030年の間に、男性で26.5%、女性で53.2%それぞれ増加することが予測された。
・肝がん、膵がん、結腸がんで著明な増加が予測された。
・2型糖尿病によるがんの人口寄与割合は、60歳以上ではこの期間にわたり増加するが、20~59歳では変化しないことが、年齢別の分析で示唆された。

(引用、ここまで)



あくまで統計学的な予測ではありますが、

このままいけば、これから先も糖尿病に合併するがんは増え続ける事が予想されるとのことです。

そして中でも肝がん、膵がん、結腸がん(大腸がん)の増加が顕著という事ですが、これらのがんが増加しやすいという事はこれまでにも指摘はありました

では、なぜ糖尿病で肝がん、膵がん、大腸がんが増えやすいのでしょうか。今日はその点について糖質制限的視点で考えてみます。


まず、高血糖や高インスリン血症が繰り返される事で一番細胞に負担がかかりそうなのは、

インスリン分泌を唯一になっている膵臓だと思います。高血糖が繰り返されれば、膵臓のβ細胞が酷使されて徐々に細胞死をきたしインスリンが枯渇していく道理はわかりますし、

酸化ストレスもかかり続ければ、何かの拍子にDNA障害をきたし遺伝子が変異してしまうという状況も十分考えられるので、糖尿病で膵がんが増える理由は比較的わかりやすいと思います。

では肝臓はどうでしょうか。

肝臓の主たる働きは、なんと言っても「物質の代謝」です。

肝臓は、生体が生命を維持できるように糖代謝、脂質代謝、タンパク質代謝を中心に複雑な代謝を常に回転させています。

また糖質を摂取すれば糖代謝メインになるでしょうし、糖質を制限すれば脂質代謝に切り替わりケトン体が産生されます。

メインエンジンの差こそあれ、糖質摂取をしてもしなくてもどちらにしても肝臓は日夜休みなく働き続けている事になります。

それだけ肝臓は負担の大きい臓器なので、再生力が強い事でもよく知られています。少々故障してもまたすぐに新品と入れ替える事ができるシステムが肝臓には自然に備わっているのですね。よくできています。

しかしながら、肝臓の代謝システムや再生システムを回すにもエネルギーが必要です。それが糖質摂取の時と糖質制限の時とでは雲泥の差になります。

なぜならば肝臓の主たるエネルギー源はブドウ糖と脂肪酸であり、ブドウ糖と脂肪酸では生み出されるエネルギーの量がまるで違うからです。

エネルギー量はATPという物質の分子量で表現されますが、

ブドウ糖(グルコース)1分子あたりは無酸素下での解糖系では正味2分子のATPしか得られません。

ミトコンドリア内で酸素を用いた好気的代謝ならブドウ糖(グルコース)1分子から36分子のATPが生み出されます。

それに対して脂肪酸の場合は、結合する炭素数の数により様々な種類がありますが、例えば炭素数16のパルミチン酸1分子からは106分子のATPを取り出す事ができます。

ちなみにケトン体ができるのも肝臓ですが、肝臓自身はケトン体を使用せずに全身の細胞へ与えるという性質を持っています。

糖尿病の高血糖状態が続くとインスリンを介して基本的に脂肪酸は使用されず蓄積される方へ代謝がシフトしますので、

肝臓では複雑な代謝をブドウ糖の少ないエネルギー量で切り盛りしなければばならないという事になります。

エネルギーの少ない状況では仕事にもミスが生まれます。酸化ストレスがかかり続け肝細胞にDNA障害が起これば、それを再生・修復させる仕事に失敗すればそのまま癌化してしまう事になると思います。


最後に大腸についてですが、

大腸のエネルギー源は脂肪酸の中の短鎖脂肪酸だけである事がわかっています。

大腸は肝臓と違って仕事にメリハリがあります。即ち食物が入ってきた時の仕事量は多いですが、食物がない状況では仕事量は少なくなります。

糖質主体の食事をしていれば、少なくとも食後数時間の時間帯は糖質代謝メインとなり、唯一のエネルギー源である短鎖脂肪酸が使いにくくなります。

それでも食事と食事の間の時間帯は血糖値が下がっており脂質代謝も動き出すので糖質摂取している人でも大腸のエネルギー源は生み出す事は可能です。

ところが糖尿病の人は食後時間が経ってもまだ血糖値が高かったりしますので、なかなか脂質代謝が動き出さず、大腸にとっては深刻なエネルギー不足状態となります。

にも関わらず「3食+間食」という形で食べ続けられてしまえばさらに仕事が増えて、先ほどの肝臓と同様に、エネルギーが少ないのに大腸を酷使され続ける火の車状態となってしまいます。そういう状況でDNA障害が発生すれば、修復させるのはなかなか難しいと思います。

一方で、糖質制限実践者ならば食後でも血糖値の上昇を抑える事ができるので、常に脂肪酸をエネルギーとして使える状況を作る事ができます。

さらに食事回数を減らせばさらに大腸の負担は減り、かつ脂肪酸は潤沢に利用できる腸にとってはエネルギーにゆとりがある状況を作り出す事ができます。


まとめると、「臓器を酷使されるのに加えてシステムを駆動させるためのエネルギーが少ない状況の時にがんは発生しやすい」のではないかと私は考える次第です。

さてここで、もしもこの仮説が正しいと仮定した場合に

もう少し踏み込んで、「がんができる事は身体にとって本当に悪いことなのか?」ということについて考えてみます。

エネルギーが少ない、けれど臓器を酷使しなければならない状況の時、もしも自分が細胞ならどのように振る舞うのが最もリーズナブルでしょうか。

エネルギーが少ない最大の原因は脂肪が使えない事です。しかしその代わりにブドウ糖はふんだんに存在している状況です。

ならばいつまで経ってもやって来ない脂肪酸が来るのを指をくわえて待ち続けるよりも、細胞のシステムをブドウ糖を使える形に切り替えてやれば何とか現状を打破する事ができるのではないか、少なくともそうすればエネルギー不足で死んでしまう状況は回避する事ができるのではないか。

そう考えて、もしも環境に適応するためにエピジェネティクスのシステムで細胞が自らがん細胞を自ら作り出しているのだとすれば、

がん細胞というのは必ずしも悪いものではなく、まるで死を回避するための緊急避難装置のようです。少なくとも見つけたらすぐに攻撃するべきような類の対象ではないように私には思えます。

ただし、それはあくまで苦境を打破するための細胞にとっての苦肉の策であり、システムとして不完全だという事はがん細胞が正常細胞と同様に機能していないという事からみても明らかです。

だからケトン食のように再び脂肪酸がふんだんに利用できる状況ができれば、がん細胞は緊急避難装置としての役割が不要になり、徐々に小さくなっていくのではないかと思うわけです。


がん治療に関する治療方針は糖質制限派の医師の中でもかなり見解の分かれる所です。

私がもしがんになったら、少なくとも直ちに手術療法・化学療法・放射線療法といったいわゆる3大療法を行う事は致しません。

食事療法を中心にできる限りがんと共存するための方法を模索すると思います。


たがしゅう
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コメント

未来人。

2016/04/22(金) 15:25:32 | URL | 美月 #-
以前もコメントしたことがある者です。
2062年からやって来た未来人ってご存知でしょうか?
検索すると出てくるのですが、その中に書かれていた
「2010年で普通に食べれてるもので、実は危険なものは?」
という質問で「アルコール」と出てきます。

それから2062年には医学はかなり飛躍し「病気は治せる」とまで断言。
アルコール=体にとっては毒ですよね。
体に入ってきた毒を処理するのは肝臓???
糖質も控えて、アルコールも控えれば元気で長生きできそうですね。

Re: 未来人。

2016/04/22(金) 16:11:26 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
美月 さん

 コメント頂き有難うございます。

 「2062年からやって来た未来人」の真偽はさておき、

 2062年にはアルコールも糖質も制限するのが当然の世の中になっておいてほしいものです。

2016/04/23(土) 11:41:26 | URL | ささ #nmxoCd6A
今日もワクワクしながら拝読させていただきました!
私はこの前の血液検査で肝臓の数値が悪く落ち込みました…

私は絶食療法に興味があり、絶食こそ最高の治療と思っていましたが、肝臓のためには、断糖はもちろんですが、たんぱく質脂肪をしっかり摂るべきなのでしょうか?
体脂肪もたっぷり蓄えていれば、口から摂る栄養はそこまで必ないですよね?

Re: タイトルなし

2016/04/23(土) 13:26:02 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
ささ さん

御質問頂き有難うございます。

> 肝臓のためには、断糖はもちろんですが、たんぱく質脂肪をしっかり摂るべきなのでしょうか?
> 体脂肪もたっぷり蓄えていれば、口から摂る栄養はそこまで必ないですよね?


そうですね。
断糖をベースにしている人なら、脂肪が十分に存在する状況下であればそれほどタンパク質を一生懸命摂らなくても身体の恒常性は維持できると思います。脂肪を燃やしてケトン体はエネルギーとしてふんだんに使えますし、インスリン最小限下ならオートファジーのシステムでタンパクは自己消化・再利用できるからです。
ただ筋肉量が少ないなどタンパク質の絶対量が少ない人はひとまずしっかりタンパク質を摂っていた方がいいでしょうね。

一般的な血液検査の解釈は従来医学ベースのあくまで一面的な捉え方でしかありません。悪化のように見えて実は身体の修復反応であったという事もよくあります。あまり検査に踊らされすぎず、自分の体調をバロメータにされる事をおすすめします。

2015年8月29日(土)の本ブログ記事
「非検査のススメ」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-623.html
も御参照下さい。

赤身肉と加工肉のリスク

2016/05/17(火) 18:54:52 | URL | タケ #ggnYpLTo
こんにちは。

以前、赤身肉と加工肉がガン罹患のリスクを上げるというニュースがありました。
私はこの情報には懐疑的です。
特に赤身肉は、ガン罹患のリスクを上げるどころか下げるのではないかと思っています。
ガンが好む環境(またはガン亢進による体内環境)は「高糖質」「低体温」「低酸素」「酸性体質」と言われています。
「低体温」は赤身肉(タンパク質)の摂取で筋肉量を増やして基礎代謝を上げてやることで予防できるし、「低酸素」は赤身肉に含有しているヘム鉄の摂取でヘモグロビンを増やし、血中酸素濃度を上げることで予防できるのでリスクを下げるのではないでしょうか。

難しく考えなくても単純な話として、赤身肉がガン罹患リスクを上げるのなら野生の肉食動物(ライオンとかトラとか)はガンだらけではないでしょうか。
仮に死因がガンではなくても、死亡した肉食動物を解剖したらガンに罹患している可能性が高いはずです。
離乳したら、ほぼ赤身肉しか食べていないのですから。
しかし、そんな話は聞いたことがありません。
私は、この赤身肉がガン罹患リスクを上げるという情報には、誰かが故意に肉食を止めさせようとする意図を感じずにはいられません。

個人的に糖質制限とガッガッ赤身肉を食べてガンの予防をしたいと思っています。

Re: 赤身肉と加工肉のリスク

2016/05/17(火) 20:24:37 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
タケ さん

 コメント頂き有難うございます。

 私も肉食のがんリスクは高くないと思います。

 大局的にみても、本来肉食動物の腸管構造を持つヒトが肉を食べるのがデフォルトだと考える方が自然です。

 タケさん御指摘のように動物の動向をみて参考にできる所は非常に多いと思います。

 2016年1月4日(月)の本ブログ記事
 「ヒトを動物として捉える」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-656.html
 も御参照下さい。

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