「触れる」ことの重要性

2014/08/17 09:12:42 | 認知症 | コメント:0件

コウノメソッドの実際を見るための,

名古屋フォレストクリニック見学でもう一つ感じた事がありました.

それは河野先生が患者さんによく「触れている」という事です.

例えばコウノメソッドでの処方で症状が改善した患者さんに対して,

「よかったね~」と言いながら背中をさすってあげたりとか,

帰り際に握手を求めたりするような動作です.

何気ないこの「触れる」という動作,認知症医療の世界では最近非常に注目されてきています. 一つは「ユマニチュード」という認知症ケアの技法があります.



ユマニチュード入門 [単行本]
本田 美和子 (著), ロゼット マレスコッティ (著), イヴ ジネスト (著)


ユマニチュード(Humanitude)はもともと,体育学の教師だったイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏の二人が,

「人間はどんな状況に陥ったとしても”人間らしく”あるべきである」という哲学を元に作り出した,

知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションに基づいたケアの技法です.

もともと1940年代に植民地に住む黒人が,自らの”黒人らしさ”を取り戻そうと開始した活動「ネグリチュード(Negritude)」にその語源を持ちます.

その取り戻そうという意志に”人間らしく”,Humanであるようにという意味が込められているのだと思います.

このユマニチュード,単なる精神論ではなく具体的な技術があります.

その技術は「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4要素から成り立っており,

その4要素について深く知るだけでも大変勉強になるのですが,

今回はそのうちの「触れる」について注目してみます.

実は一口に「触れる」と言ってもポジティブな触れ方とネガティブな触れ方があり,何でもいいから触れればいいというものではありません.

ユマニチュードで推奨される触れ方は,広い面積で,ゆっくりと優しく触れることです.

そして相手をつかむのではなく,支えるように触れます.

逆に言えば,そうでない触り方がネガティブな触り方だということになります.

広い面積で優しく支えるように触る事は,「自分はここにいます.いつでもあなたの側にいます」といった非言語的なメッセージを伝え,相手に安心感を与えます.

この事が脳の興奮を抑え,相手に心地よい気持ちをもたらすのです.

それは,単に気分の問題というのではなく,脳の中ではオキシトシンが関わっているという事もわかっています.

オキシトシンは脳のストレス状態を元に戻す働きがあると言われており,

そのオキシトシンを出すスイッチに当たる行為がポジティブに「触れる」という事なのです.

河野先生は,自然にそういう事もできているのかもしれないと感じました.



また見方を変えれば,こうした技術は薬では成し遂げる事はできないことです.

なぜならば,触れる事でより自然なオキシトシン分泌が促されるからです.

ここでまたオキシトシンを高める薬を,なんて発想になってしまったら,

SSRIやSNRIなどセロトニンを強制的に出させる薬の二の舞になってしまうと思います.

良い物質だからといって自然のメカニズムに逆らって補充してもロクな事がないというのは,今の世の中を見ればよくわかると思います.女性ホルモンもしかりです.

いかにありのままの状態をキープできるか,

そういう事が大事なように思います.


たがしゅう
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する