原因不明の小児肝炎についての私のスタンス

2022/05/19 13:00:00 | 読者の方からの御投稿 | コメント:0件

話題の原因不明の小児肝炎について、たがしゅうさんはどう考えますか?」というリクエストを読者の方から頂きましたので、今回はこれについて考えてみたいと思います。

わからないことも多いですし、これからも情報は更新されていくと思いますが、現時点(2022年5月19日時点)でわかっている要点を整理すると次のようなことになると思います。

・2022年4月頃からイギリスを中心に原因不明の比較的重症な肝炎を呈する小児症例が相次いで100例程度報告されてきた。
・患児の年齢はほとんどが10歳以下で、その多くは3〜5歳というコロナワクチン非接種の年齢で、やや女児に多いらしい
・いずれの症例でも小児肝炎の原因として考えられる一般的な原因(A型、B型、C型、D型、E型肝炎など)の可能性は否定されており、アデノウイルスやコロナウイルス(オミクロン株)の関与が、あるいは重複感染の関与が疑われているらしい。
・イギリスで報告されて以降、ヨーロッパを中心に世界各国でも数名〜数十名単位で同様の原因不明の小児肝炎の症例が報告されて、日本でも数例報告が上がってきている。
・患児にはこれまでに共通の病歴、食事、旅行、動物との接触、医薬品や毒物への曝露などは確認されておらず、免疫不全などの病歴もなかったらしい。
・ほとんどの患児は回復し、10%程度が肝移植を必要とし、少なくとも1名は死亡したとのこと


これらの情報を踏まえると、コロナに続いて未知の恐怖の感染症が再び私達の生活を脅かそうとしている、しかも小児を中心に起こっているということで不安に駆られているかもしれません。

ただ私のこの一連の情報に対して思うことは、一言で言えば世界は何も変わっていないのに、また新たなレッテルを貼ろうとする動きが出てしまっている」ということです。 まず、小児に肝炎が発生することは今までになかったのでしょうか。

私は医師ですが小児科医ではないので、この辺りの見解についての体感的な経験は乏しいですが、今までの臨床経験や学んできた医学知識をもとに考える限り、おそらく今までにも原因不明の肝炎はそれなりにあったはずです。

それが統計的にどの程度であったかはわかりません。例えば、何だかわからないけれど、血液検査で肝臓の数値が上昇してしまう場合は臨床現場では時々遭遇します。

大人であればアルコールとか、脂肪肝とかが関わっていたり、何かしら薬やサプリメントを飲んでいる人も多いので、おそらくその辺りが原因なのではないかという可能性を考えて、食事や飲酒について介入したり、疑わしい薬を変更してみたりするうちに改善してくることも結構あります。

ですが、その一過性の肝機能障害の状態が何かの統計情報に反映されることはまずありません。そうした状況は現場でスルーされて、何事もなかったかのように日常に戻る場合がほとんどであろうと思います。

ところがある時にニュースで「原因不明の肝炎が発生している!」と報道されるようになると、今までであればスルーされていた肝機能障害の症例を、「これもその原因不明の肝炎かもしれない」と思って心情的に報告し始める医師が増えてくることが容易に想定されます。そうなるとまるでクラスターのように患者の集団が形成されていくところがまずあると思います。

次に小児の場合は、大人の肝炎にとっては一般的なアルコールや脂肪が原因となるケースはまずありませんし、大人のように薬を常用しているケースも基本的には稀だと考えてよいでしょう。

だからその通常起こらない肝機能障害が、しかも肝移植まで発生するようなレベルで起こることもあり、中には稀ながら死亡する例もあり、それが未知のウイルスのせいかもしれないと言われたら、特に当事者にとっては不安になる気持ちが出てきても無理もないと思います。

ただ、一つ考えなければいけないことはその現象が起こっている頻度と分布です。例えばきっかけとなったイギリスでは現時点で軽症例も含めて100〜200名程度の小児の肝炎症例が報告されているとのことですが、

イギリスに小児がどのくらいいるのかと言いますと、日本ユニセフ協会が公表している世界子供白書2019によりますと、2018年時点でイギリスの18歳未満のこどもは1404万2000人、5歳未満のこどもは397万7000人いるそうです。

計算しやすく1000万人のこどもにすると、そのうち100人が原因不明の肝炎、しかもそれは今までであればスルーされていたかもしれないケースも含むものですが、確率にして0.00001%、実に10万人に1人の計算になります。死亡例にもなれば1000万人に1例です。そのくらいの頻度であれば今までであっても、原因不明の肝炎は起こっていたのではなかろうかというのが私の感覚です。

ただ今までであれば原因不明の肝炎として片づけられていたとしても、今回は未知のウイルスが原因ということになれば、これはスルーしていると公衆衛生上も問題ですし、直ちに原因を究明して対処しなければならないのではないかという考えもあるかもしれません。

しかしここで考えなければならないのは、その未知のウイルスのせいかもしれないという根拠になっている情報が、ウイルスのPCR検査だということです。原因不明の小児肝炎の患者をPCR検査で調べたら、一部でアデノウイルスのPCR検査が陽性になったり、また一部でコロナ(オミクロン株)のPCR検査が陽性になったりしているから、これらのウイルスが原因かもしれない、あるいは複数のウイルスの合わせ技によるものかもしれない、などと議論されているわけです。

ところがPCR検査は、当ブログで散々取り上げてきましたように「陽性になっても症状との因果関係が証明されない」のです。症状とは無関係の死んだウイルス、あるいは一部だけ遺伝子が一致した似た構造物がそこにただいるだけの状況であってもPCR検査は陽性となってしまいます。それはアイスクリームの検体からPCR検査が陽性になるという事実から明らかです。

しかし悲しいかな世界の医者はほとんどが今、症状のある患者においてPCR検査が陽性が出たら、そのPCR陽性となっているものが症状の原因であると決めつけてしまっているのが現状だと思います。これは「病原体病因論」の発想がなせる業だと思います。

でも100%の確率でPCR陽性がそのウイルスの関与を示せないのだとしても、そのうちのいくつかは実際にそのウイルスが関与している可能性は否定できない以上は、ウイルスが原因となっている可能性を考慮しながら原因を考えていく必要があるという意見もあるかもしれません。

そこで次に考えてほしいのは分布です。以下に示すのはネットで見つけたイギリスの次に原因不明の小児肝炎の患者が増えてきているアメリカでの患児が確認された場所の2022年5月18日時点での分布を示したものになります。どうやらアメリカでもこれまでに180名の患者が報告されており、これは国としてはイギリスについで2番目に多い数なんだそうです。


(画像引用元はこちら

いかがでしょうか。アメリカも随分広大な土地のある国だと思いますが、すでに全国各地で患者が発生していますね。

この状況をウイルス側の立場になって考えると、よくもまぁここまで短期間で広がりきれたものだなと思います。都市部から地方まで満遍なく広まっています。

しかも各州での患者数はほとんどが数名から数十名レベルです。ウイルスは生きている宿主のもとでしか存在できません。宿主が死ぬと自分も死んでしまいますから、宿主を死なさず、かつ広められるように増殖しながら生きていかないといけません。

そんなウイルスの行動を人間で例えるならば、1回も足をつかずに世界各国の土地に到達するゲームをごく少数のメンバーでチャレンジしているようなものです。しかも自分の意志で移動することはできませんし、一旦足がついたら(宿主が死んだら)ゲームオーバーになるルールです。偶然誰かにタッチすることができれば仲間を増やすことはできますが、その新たに仲間になった人にも同じように厳しいルールが課せられる状況は変わりません。

この完全に無理ゲーとも思えるゲームをこの原因不明ウイルスくんは見事に成し遂げ、しかも1ヶ月程度という短い期間で、アメリカ中の国土を踏破することに成功しているというのです。

しかもメンバーを圧倒的に増やしたのであればまだ成功の可能性は高まります(それでも厳しいです)が、最終的に達成時点でのメンバーは180名という少なさです。まだ数えられていないメンバーがいるであろうことを踏まえても圧倒的な少なさです。これは1名1名に丁寧にウイルスが伝わって広がったと考えるのは随分無理のある話に思えます。

いやでも、コロナと同様に「無症状感染者」が無数にいたからだと、ゲームの例えで言えば実際のメンバーは180だけではなく、もっと億単位のレベルの数が存在していたという仮説を考える人もいらっしゃるかもしれません。「無症状感染者」、実に便利な概念です。

しかし「無症状感染者」の助けがあったと仮定しても不自然なのは、あまりにも一気に全国に広がり過ぎているということです。もしも「無症状感染者」が無意識のうちに広めていたのだとしても、全国に広がりきるまでの間に有症状感染者が局所に止まる時期が観察されるはずです。ましてや国をまたいだ移動に制限がかかっている今の時代であればなおのことそうなるはずです。

しかしそうした時期は一切なくて、気づいたらすでに全国どこでも観察されていました。これは日本にコロナが広まってきたと言われ始めた頃にも私が感じていた違和感と同じです。海外から入ってきたのだとすれば日本の感染者は一時期東京周辺に集中する時期があっても不思議ではないわけです。ですが実際には、空港検疫でしか検査を実施していない時期はともかく、全国で検査ができるようになったらその瞬間から全国で患者が発生するようになっており、しかも患者の数は検査を実施した数が圧倒的に多い都会に集中しています。しかもどこか一部の都会だけではなく、検査をたくさん実施した都会であればどこであっても患者数が増えているのです。

これは「無症状感染者」という概念を活用したとしても、1つ1つ丁寧にウイルスが伝わっていたと考えるとつじつまが合わない現象だと私は思います。

百歩譲って、もし仮に「私たちが感染者が局所に固まっている時期を見逃していただけ」だと仮定してみましょう。そうすると必然的にこの原因不明ウイルスは圧倒的大多数の人にとっては無症状のウイルスだということになってしまいます。逆に言えば、肝炎を起こしてしまうごく少数の人の中には、ほとんどの人が無症状で済む問題を重症肝炎にまで発展させてしまうウイルス以外の何らかの要因があるのかもしれないとも言えます。これは今のコロナについても同じ解釈ができるように思います。


そこでもう一つ、この状況を説明しうる説として私が考えるのが「宿主病因説」です。

確かに小児において肝炎が起こり、しかもそれが肝移植を必要とするレベルにまで発展してしまうことは珍しいことです。しかしそのような現象が今まで全くなかったわけではありません。

例えば、先天性代謝異常症という病気があります。これは「生まれつき、特定の酵素が欠損していたり、代謝の働きが障害され、物質が体内に欠損したり、過剰に蓄積することで様々な症状を引き起こす遺伝性の疾患」の総称です。

先天性代謝異常症自体稀な病気ですが、その稀な中でも比較的患者数の多い有名なものは、新生児マススクリーニングという検査で調べて異常の有無を確認することができます。ただ義務ではないので全ての人がこの検査を受けているとは限らないということと、全ての遺伝子を調べるわけではないのでレアな先天性代謝異常症は見過ごされることもあるという点に注意が必要です。

例えば、新生児マススクリーニングで見つけられる先天性代謝異常症の中にアミノ酸代謝異常症というのがあり、さらにその中の1つに「高チロシン血症」と呼ばれる病気があります。これは「フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ」という酵素に関わる遺伝子の働きが生まれつき弱く、そのことがチロシンというアミノ酸の代謝を滞らせることで発症する病気だということがわかっています。きたしうる症状(現象)としては肝機能障害があり、遺伝子の欠損具合に応じて程度が軽症〜重症まで幅広く、中には肝移植が必要なくらい重症となることもあるそうです。

ただこの「高チロシン血症」の場合は新生児マススクリーニングによって発見されうるのでまだ良いですが、これと同様の病態を引き起こす世間に認知されていない遺伝子異常による酵素欠損が、マススクリーニングでも発見できないのだとしたら、どうでしょうか。

これは原因不明の小児肝炎という扱われ方をすることになると思います。そこでニュースや医学論文で「原因不明のウイルスが肝炎を起こしているかもしれない」という情報が耳に入り、さらにPCR検査が実施できる状況があるとすればどうでしょうか。しかもそのPCR検査が陽性ということになればどうでしょうか。

もうPCR検査を実施した医師にしてみれば、その原因不明のウイルスが肝炎を起こしたとしか思えないかもしれません。しかし、はたして肝機能障害をきたしうる遺伝子異常を含めた他の原因を検証しきれている状況でしょうか。

この患者数の稀具合(肝移植者や死亡者に限ると世界で十数名レベル)、及び全国で一気に発覚する分布や時間的経過を踏まえると、ウイルスが原因と考えることには無理があり、それよりは稀な未認知の先天性代謝異常症(ひょっとしたら既認知の先天性代謝異常症でさえ見逃されているかもしれない)が肝機能障害に注目されてオーバートリアージ(過剰診断)されているだけだと考える方が自然だと私は考えています。


まとめると「今までにも同じように発生していた必ずしも原因がわかっていない、しかし主として宿主側の要因に基づくレアケースを、ウイルスのせい(病原体病因論)という視点でレッテルを貼ってしまっているだけ」という状況に私は思えてならないのです。

勿論、ここから先、例えばかつてないほどに肝移植が必要な小児の症例が増えていけば、私も考えを改めるかもしれませんが、今の所の私の見解としてはそんなところです。

ちなみに今回この小児肝炎についてはコロナワクチンの関与はまずないでしょう。よく言われるように大多数がコロナワクチンの接種対象年齢にないこども達ばかりだからです。

あとコロナ禍におけるマスクの強要などによるストレスが原因ではないかという意見も時々聞きますが、それは間接的には関与しているかもしれませんが、それだともっとたくさんの小児がそうなってこないと話が合わないのでやはり主因ではないと考えています。


思えば、2019年12月頃に中国で原因不明の肺炎が話題になったことも、同じような誤解が起こっていたのかもしれないと想像します。

ただ不幸だったのは、小児の肝移植を必要とする肝炎は滅多に起こらないことですが、重症の肺炎は割と日常的に起こっているということです。きっかけは中国武漢で比較的若い人で重症肺炎が立て続けに起こってしまい、それにも宿主側の何らかの未認知の要因があった可能性だってあったわけですが、

「未知のウイルスによる原因不明の重症肺炎」というフレームが報道やネットによって一気に拡散してしまったために、それまで高齢者でありふれて起こっていた細菌性肺炎や誤嚥性肺炎にもPCR検査が実施されるようになり、コロナだとレッテルを貼られる習慣が世界的に広まってしまいました。

つくづく非常に残念な出来事であると感じます。

実は世界は何も変わっていないという視点で見つめ直す必要があると思います。


たがしゅう
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