主体性は患者満足度を高める

2018/05/25 00:00:01 | 主体的医療 | コメント:4件

「主体的医療」という言葉は何も私が初めて作った言葉ではなくて、

「主体的医療」というワードで検索してみると、過去にも様々な人が同様のことについて考えた跡がある事がわかります。

例えば、2004年1月に株式会社NTTデータ システム科学研究所は、「患者の主体性と医療への満足度に関する調査」というタイトルで、

3大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)の市域及び人口30万人以上の都市に住む20歳以上70歳未満の男女で、2001年1月1日以降に入院または6ヶ月以上の通院を経験したという方にアンケート調査を行っていて、有効回答数1,270の調査結果を公開しています。

その結果を見ますと、例えば、比較的重い病の治療法を決める際に自分が希望する行動を選択肢形式で選んでもらう設問で、

・「専門家である医師の決めた治療方法について十分な説明を聞き、納得した上で治療を受けたい」とする「説明・納得タイプ」の人が54.9%
・「治療について、十分に説明を聞き、複数の選択肢を提示してもらった上で、自分自身が治療方法を選択したい」とする「自己決定タイプ」の人は40.7%

という結果が明らかにされています。 「説明・納得タイプ」の人は私が考える所の受動性が高い集団と思われ、やはり半分以上はこうしたタイプの方々です。

一方で、主体性が高い「自己決定タイプ」の人は私が想定するよりもはるかに多い4割という割合を占めているようになっていますが、

おそらくこれは「医師が選択肢を提示した中から最善の選択肢を選ぶ」という人達がメインを占めているのではないかと思います。

そういう人は自分で問題点と解決策を考えていないという点で、「説明・納得タイプ」の人達に比べれば主体性が高いとはいえ、まだまだ受動性の高い部類に入る集団ではないかと思います。

「自己決定タイプ」の中でもさらに主体性の割合が高い人達がはたしてどれだけいるか、そしてそういう人達にどのような医療を提供するのが望ましいのかを引き続き考えていく必要があろうかと思います。


また、「治療法を決定する際に患者が担当医に対して臨む姿勢」を訪ねる設問では、

・医師が治療法を決定し、患者に説明し同意を得る「医師主導・説明同意ありタイプ」が52.8%
・医師が複数の治療法を説明し、患者と相談しながら治療法を決定する「医師・患者パートナータイプ」が32.9%
・医師が患者にとって最良だと考える治療法を、説明や同意を経ずに決定する「医師主導・説明同意なしタイプ」が9.7%


という結果となっています。

32.9%の「医師・患者パートナータイプ」が比較的主体性が高い集団、
52.8%の「医師主導・説明同意ありタイプ」が比較的受動性が高い集団、
そして9.7%の「医師主導・説明同意なしタイプ」が極めて受動性が高い集団
だと大雑把に言うことができそうです。

そして特筆すべきは、さらにこれらの担当医タイプと患者満足度の関係を調べた調査結果では、

「医師・患者パートナータイプ」で「満足」(「満足した」「ある程度満足した」の計)が92.1%であり、他のタイプと比較して高い(対象者全体では85.9%)という事が明らかにされているということです。

これは患者が主体的に動けば医療の質が上がり未来が拓けるということが示されているデータではないでしょうか。

もっと言えば、「医師が複数の治療法を説明」するだけでなく、「患者も自身の問題点を自己分析し希望する治療法を提案する」というように患者の主体性が高まれば、

さらに個別性の高いオーダーメイドで患者満足度の高まる医療が展開できるのではないでしょうか。

問題は患者からの提案に現在の多くの医師が対応できるとは限らないということです。

ほとんどの医師は西洋医学中心の教育で医学部を卒業し、独自で勉強の機会を設けない限りは西洋医学の観点からでしか患者へアドバイスすることができません。

したがって患者が自ら考えて西洋医学外の代替医療を希望するという時に、それを提供してあげることもできなければ、

もしもその判断理由が浅い考えから来るものであった場合にも、軌道修正のアドバイスをしてあげることもできません。

主体的医療を提案する私でさえ、漢方以外に鍼灸やホメオパシーなど現代医療外の代替医療について普段から勉強してはおりますが、

それ以外全ての代替医療に対応することは到底対応できません。

例えば患者さんが音楽療法を希望されたら、助言はできるかもしれませんが、治療を施してあげることはできません。

だからこそここで、広大なネット空間から自分の求める医師を選択するシェアリングエコノミーのような構造が必要となるのではないかと私は考えます。

必ずしも私を頼らなくても、音楽療法を専門にしている人からアドバイスを受ければいいのです。

しかし音楽療法の専門家は糖質制限を知っているとは限りませんし、漢方のことは全く知らない可能性だってあります。

だからこそ患者自身が主導権を持って問題点を同じ目線で検討し、解決策を適切に提案してくれる医師を、

ネットを通じて選択する患者主体性重視のシステムの構築が必要
になってくると私は思います。

それは良い医療が生き残り、悪い医療が淘汰される事にもつながる可能性さえ秘めていると思います。


たがしゅう
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コメント

未病と養生

2018/05/25(金) 19:20:01 | URL | やまたつ #UoJDqtOY
漢方の概念に未病があります。
先日紹介いただいた消穀善飢を調べて、気がついたのですが昼ごろになると、お腹が空くのも立派な未病だということ。胃が健全な状態であれば、酷い空腹感は襲って来ないという事実。糖質制限して、糖質を遠ざけると自然と食事回数が減ることから、この観察は正しいことが体感出来ます。
しかし、糖質制限したことがない人に、お昼に腹が減るのは胃の調子が悪いかもしれないです等々説明したら悪い冗談として受け取られます。
断食を行う目的に、空腹感を味わうことで、食物への感謝や生かされている実感を味わうという説明がされることがあります。そもそもの空腹感が穀物の食べ過ぎが主原因なのに、断食の復食に粥を食べるという行為の一貫性のなさに気がついている人は少ないようです。
お昼になれば腹が減ってご飯を食べる。断食を行えば、酷い空腹感が襲ってくる。これらは主体性による行動の結果でありますが、主体性の正体とはその状況における選択肢が自分の意思で自由に選べる事態に過ぎないように思います。重篤な疾患になれば、なるほど選択肢が狭まるのは誰もが知っている常識ではないでしょうか。
個人的には、そのような状況で多く選択肢を持つこと、選択肢を自分で選ぶことよりも、そのような状況を招かないよう気をつけたいと考えます。
東洋医学には、養生という概念が古くからあります。これは医療制度が現代とは比較にならないほど貧しい状況で、病気にかかることは死を意味した時代に生まれ、病気の予防と健康増進で、主体性を厳しく求められる危機的な状況を避けようとした名もなき人々の智慧と理解しています。老子第五章の以下の文章を引用します。

原文 天地不仁,以萬物爲芻狗。
読み下し 天地は仁ならず。万物を以て芻狗と為なす。
訳 自然に対して、仁という思いやりの心は通じない。
自然は人間をモノとして犬ころのように無慈悲に取り扱うのだ。

冷徹な自然認識のもと、病気にかかれば死が待っている状況で、予防だけに終わらず、より健康を増進しようと努力するか。多くの知識と情報で困難な状況を主体性で乗り切るのか。未病の段階では、養生の思想に魅力を感じ、東洋の智慧の復活を密かに願っています。


承認待ちコメント

2018/05/25(金) 22:26:20 | | #
このコメントは管理者の承認待ちです

Re: 未病と養生

2018/05/26(土) 19:41:37 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
やまたつ さん

 コメント頂き有難うございます。

> 昼ごろになると、お腹が空くのも立派な未病だということ。
> 胃が健全な状態であれば、酷い空腹感は襲って来ないという事実。
> 糖質制限して、糖質を遠ざけると自然と食事回数が減ることから、この観察は正しいことが体感出来ます。


 重要な御指摘だと思います。
 特にやせるのを恐れて食べ続けてしまっている人にとっては一考の余地があると思います。
 自分の今の状態が当たり前だと捉えていると、それが不自然な状態だということに気付かないことは時にありますね。

> 主体性の正体とはその状況における選択肢が自分の意思で自由に選べる事態に過ぎないように思います。重篤な疾患になれば、なるほど選択肢が狭まるのは誰もが知っている常識ではないでしょうか。

 こちらも重要な御指摘と思います。
 確かに緊急事態においては主体性うんぬんなどと言っている場合ではありません。
 主体性が発揮されるのは、あくまでも自分の意思で自由に選択できる状況においてだと思います。その点については後日改めて記事で論じる予定です。

 逆に言えば、主体性が発揮されうる状況にも関わらず受動的に選択してしまう場面が現代医療の中で多く認められているのではないかと思います。

Re: ご教授いただけますか

2018/05/26(土) 20:12:06 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
たいきち さん

 御質問頂き有難うございます。
 私も専門家ではないので、あくまでも個人的な考察を述べます。

 細胞の「分化」とは未分化の胚細胞が、上皮、神経、脂肪、血球、間質、筋肉など機能を持った細胞へ変化していくこと、「脱分化とは変化したそれぞれの細胞が未分化の細胞へと戻っていくことです。例えるなら研修医が専門医になっていくのが「分化」、専門医から研修医へ戻っていくことが「脱分化」でしょうか。「脱分化」は、傷の治癒過程など一部の細胞を除いて通常は起こらないプロセスと考えられますが、iPS細胞の作成技術でそれが可能となっているわけです。

 今回の膵臓癌のメカニズム発見のニュースはがん遺伝子変異単独では膵臓癌を発症しなかったマウスで、その遺伝子変異操作を行った一部の膵臓細胞へさらに脱分化をきたす操作を加えたところ、膵臓全体がガン化したという話です。だから「脱分化」という現象がガン化に関わっているのではないかというのです。

 この話は逆に言えば、「分化した細胞はがん化抑制的に働いている」という風に考えることもできます。
 細胞が脱分化したことがガン化の原因と考えるよりは、がん抑制的に働く細胞の数が減少することが全体のガン化につながる、ということなのではないかと私は考えています。

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